芸能インタビュー | かりゆし芸能公演

最終更新日:2021年9月27日

かりゆし芸能公演 インタビュー09
沖縄芝居研究会 代表 伊良波さゆきさん

-沖縄芝居研究会創立のきっかけと現在の活動状況についてお聞かせください。

伊良波さゆきさん(以下伊良波):創立は2012年12月で、来年10周年の節目を迎えます。現在は20代、30代の8名で活動しています。「沖縄芝居研究会」という名前の通り沖縄芝居を深く研究することが目的の会で、作品にでてくる一つひとつの「言葉」や「小道具の扱い方」などを互いに学び合い、個人の芸、また芝居全体のクオリティーを上げようという目標を掲げ活動しております。
主な活動は月一回の定例会と年一回の自主公演の開催です。定例会では毎回テーマを設けて、それについて「あーでもない、こーでもない」とやっています。テーマは様々で、扮装、からじ(髪型)、お化粧などの実技的なものから、日本語のポップスをうちなーぐちに訳してみるなど様々です。

-沖縄芝居研究会 みらい発掘プロジェクトと題して、4歳から14歳の子どもたち13名による『舞踊劇「はるぬ七ち星」』(はるぬななちぶし)を上演しました。会員の皆さんの子どもたちへ向ける優しい眼差しが舞台いっぱいに溢れていて、客席からも自然と拍手が湧き上がる素敵な舞台となりました。当日の子どもたちの様子やお客様の反応はいかがでしたか。

伊良波:当日、子どもたちは興奮していました。特に最年少4歳の廣山翔真さんは、お化粧されている自分を鏡ごしに見てずーっとニヤニヤ(笑)。いよいよだぞ!という雰囲気を小さいながらに感じとっていましたね。またお稽古の時から「この13名で一緒にできるのはあと何回だよ!」と毎回言っていたので、終演後に「先生、今日で終わりなの?」と子ども役の嘉数ひなたさんが寂しそうに聞いてきたので、子どもたちなりに楽しく、達成感を得た舞台になったんだなぁと嬉しく感じました。
『舞踊劇「はるぬ七ち星」』は、宮古島に伝わる民話をもとに書き下ろした作品で、一人一人が主人公になれる脚本になっています。隣同士に住むお金持ちの西銘ぬ主夫婦と貧しいマツガニ一家の物語で、子どもたちは愛らしい仕草でお客様を虜にしていて、登場する度に拍手が上がっていました。もう私はそれが本当に嬉しくて!役者が舞台へ出た瞬間の「拍手」は「待ってました!」という意味ですから。実は今回の公演には、「客席からの拍手を子どもたちに味わって欲しい」という狙いがありました。役者は「拍手」をあびたくて舞台に上がっていますから、その狙いが予想以上に当たったので本当に嬉しかったですね。子ども達もお客様の拍手にどんどんのせられていったような気がします。


舞踊劇「馬山川」で美男を演じる伊良波さん(前列左から二番目) 撮影:大城洋平

-保護者の皆さんも喜んでいらっしゃいましたか?

伊良波:本番を舞台袖で見ていた保護者の方が泣いていました。保護者の皆さんは本番までの4ヶ月間、子どもたちと二人三脚でお稽古に取り組んで下さいましたから、感謝でいっぱいです。あの拍手は保護者の方への拍手でもあったと思っています。


撮影:大城洋平

-子どもたちを指導する際に様々なご苦労があったかと思います。

伊良波:まだまだ甘えたい盛りの小さいお子さんは、「やりたくない」と泣き出して稽古場に入ってこれなかったり、その子につられて「私もやりたくない…」と言いはじめるお子さんがでるなど…、予測不能の連続でした(笑)。13名から1人も辞退者を出したくなかったので、常に優しく、無理をさせないということを会員全員で心がけました。またお稽古の冒頭に揃って行う「はじめます」のあいさつが、どうも稽古場の雰囲気を「ピシャッ!」とさせていると感じましたので、あいさつも無くして、先に来た子から音楽に合わせてお稽古をはじめておくなど、子どもたちが入ってきやすい雰囲気に整えていきました。


撮影:大城洋平

実技的な面では、子どもたちの集中力を考慮するとお稽古の時間は90分が限界かなと思いますので、効率良くお稽古を行う必要がありました。特に小さい子は集中力が持続しないですから、「こっち見てよ~!」と一発でわかるようなアイテムを自作して、子ども達の注意を惹きつけるように工夫しました。また大道具さんが、「子ども達のためになれば」と製作してくれたミニチュアの舞台模型が大活躍しまして(笑)。
舞台上でのお互いの距離感、また小さな段差など、舞台模型を活用してイメージをしっかり共有できましたので、大きなミスなく本番を乗り越えることができましたね。


ミニチュアの舞台模型とこだわりの小道具(左)こども達の注意を惹きつけるために工夫したアイテム(右)

私の話で恐縮ですが、子役5名が使う小道具のおにぎりを手作りしたんです。昔テレビで話題になった「チネリ米」のように、樹脂粘土を一粒一粒チネって完成させたんですが、この作業にハマってしまって(笑)。外出中もむしろ「早くお家に帰ってチネリたいな~」と思うほどでしたし(笑)、会員が勤め先から調達してくれた本物の稲を使った小道具も、みんなでアイディアを出しながら手作りしましたので、日に日に本作品への愛着が増していきました。
指導面での苦労ではありませんが、公演の直前は、県内のコロナウイルス感染者数が過去最高を更新、また更新と、非常に厳しい状況で…。実施するべきかどうか、眠れないほどに毎日迷いました。ですが、子どもってすぐ大きくなるんです…。この13名で舞台に立てるのはこれが最後かもしれない…との思いもありますので、感染症予防対策に努めた上での上演を決断しました。コロナ禍になってからは、私たち大人の舞台はほとんどの割合で中止になっています。チケット料金をお客様へ払い戻す作業や、使用しなかった劇場に使用料を支払ったりして、困難と矛盾の連続でがっかりしてばかり。ですから、子どもたちには私たちと同じ思いをさせたくありませんでした。

-今回の舞台には、「新しい客層の発掘」と「若手実演家が舞台制作を学ぶ」という別の狙いもありました。それについても収穫はありましたか。

伊良波:「先生、今度舞台を見に行きますね!」と声をかけてくださった保護者の方がいて。その言葉は私たちにとって大きな収穫です!本公演を入り口に、沖縄芝居の公演を見にきてくれる方が一人でも増えたら嬉しいですね。若手が舞台制作を学ぶ機会にするという点でも収穫がありました。昔からある作品だと、先人の作った「型」がありますから、特に芝居に取り組み始めたばかりの20代の実演家だと、こうしたい、ああしたい、ということは絶対に言えません。なので今回は、新作をゼロから立ち上げて若手会員にも積極的に意見を言ってもらうことにしました。脚本・演出を米盛未来さん、伊波留依さん、そして私の3人で担当し、振付を金城真次さん、上原崇弘さんに任せ、知念亜希さん、儀間佳和子さん、奥平由依さんには、予算管理やパンフレットの作成、指導の補助係を担当してもらいました。それぞれに役割を任せることによって、自分なりの意見やアイディアを出し合うことができましたし、分業したことで舞台全体のクオリティーが上がり、その結果大成功につながったのではないかと感じています。

-これまで30年余り沖縄芝居に携わってこられましたが、沖縄芝居の後継者不足、また客離れがすすむ現状についてお聞かせください。

伊良波:私が子役として舞台に上がっていた頃、下火になっていたとはいえ、まだまだ沖縄芝居は人気の娯楽でした。それから20代になった頃、ちょうど2000年ですね。当時の沖縄芝居は本当に瀕死の状態だったように思います。若い役者が育っておらず、相手役はいつもものすごく年上の先輩方ばかり。同世代の役者がいないという状況に少しずつ危機感を抱くようになっていきました。後に沖縄県立芸術大学の方々が沖縄芝居に挑戦してくれるようになり、現在は少しずつ仲間が増えてきた状況です。しかし若い世代は全盛期だった頃の舞台を見ておりませんし、素晴らしい技術を持つ先輩方と関わりを持つ機会がほとんどなくて…。ですから、まずは後輩たちに古い舞台映像を見せることや、先輩方から直接指導を乞う機会を設けるなど、微力ながら「技術の継承」がすすむような環境づくりにも努めてきました。また課題は役者側だけではありません。沖縄芝居ファンの高齢化が進み、「あの役者、今日はだめだったねぇ」という厳しい目を持つお客様が減ってきています。お客様の厳しい目は役者を育てます。今後若い役者が育つためには、沖縄芝居を見にきてくれる若いお客様をはじめ、見巧者のお客様を地道に増やしていくことが必要です。この問題は1年、2年では結論がでませんから、難しいですね…。


撮影:大城洋平

-2022年2月19日に沖縄芝居研究会創立10周年記念の舞台が控えています。コロナ禍ではありますが、会の今後の展望や夢をお聞かせください。

伊良波:私は、沖縄芝居の本質は「娯楽性」にあると思っています。ですが現代は、純粋な娯楽から古典芸能へと移行しつつある過渡期にきていると感じています。言葉の壁や作品の時代性など課題もありますが、沖縄芝居を途絶えさせないためにも、より若いお客様に見にきていただけるような取り組みに力を入れていこうと思っています。その手はじめとして、作品解説と舞台鑑賞のツボが学べるガイドブックの作成、沖縄芝居についてのホームページの立ち上げを計画しており、気軽に沖縄芝居を学べるコンテンツを充実させていこうと考えています。
「創立十周年記念公演」では、名作歌劇の「泊阿嘉」「薬師堂」「奥山の牡丹」「伊江島ハンドー小」を一挙上演予定です。改めて基礎に立ち返るという趣旨の公演で、メンバーは1日も早く公演をやりたい!と気合十分。お客様は「またこの作品ね~」と思うかもしれませんが(笑)、私たち全員が力をつけていくために、繰り返し同じ演目を上演していきたいと考えています。全メンバーが主役はじめ全配役に当たるまで、20年、30年かけて上演する目標ですから、お付き合いどうぞよろしくお願いいたします(笑)。

-伊良波代表が舞台に立ち続けてこられた「原動力」とは。

伊良波:それは芝居が好きだからです。好きという気持ちは「強さ」へと変わっていきます。また自主公演の企画・制作・出演はじめ、衣装・小道具の製作や出演依頼をいただく他団体の舞台など、ほぼ毎日、朝から晩まで芝居に関わる何かしらの仕事があるんです。好きな芝居に携われることが今は本当にありがたいです。
私の祖父・伊良波尹吉(1886 ~ 1951年)、父・伊良波晃(1935 ~ 1996年)も人を育てることに熱心でした。父は60代前半、志半ばで亡くなってしまったので、叔母の冴子(1936年~)が父の思いをついで、幼い私を役者に育ててくれました。私も、三人の思いをついで基礎がしっかりとした役者を増やしていきたいと思っています。もちろん、私もまだまだ未熟で学ぶ立場であることは承知の上ですが、人を育てることは伊良波家の宿命かな、と。今回の13名の中から、芝居、三線、舞踊など、沖縄の芸能をもっと続けたい!と思ってくれる子が1人でもでたら嬉しいです!

取材日:2021年8月9日(月)
取材場所:(公益)沖縄県文化振興会
(※写真撮影のためマスクを一次的にはずしていただきました。)

プロフィール

伊良波さゆき(いらは さゆき)

沖縄芝居役者(伊良波晃·冴子に師事)
沖縄芝居研究会代表

1982年(昭和57年)南城市(旧大里村)出身。
役者の家に生まれ1985年に初舞台を久高将吉師の率いる「俳優座」にて踏む。その際「羽衣の由来記」みやみ役を演じる。それを機に、父・晃の率いる「劇団伊良波」や、宮城亀郁師の率いる「演劇友の会」にて子役としての機会を数多く得る。
1996年、子役を卒業し「奥山の牡丹」真玉津役で大人役のスタートを切る。同年に父が他界した後は、叔母・冴子の指導を受け数々の役に挑戦してきた。
沖縄国際大学総合文化学部日本文化学科において、琉歌とうちなーぐちを学び、卒業後は掘り起こし作品の脚本書き取りの際に役立てている。2012年、数名の有志とともに「沖縄芝居研究会」を立ち上げた。基礎的な訓練を重視した上で明治・大正の古き良き時代から伝わる作品に挑戦し、基礎力の高い役者を目指そうと会員一同、総力を挙げて取り組んでいる。

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