芸能インタビュー | かりゆし芸能公演

2019年12月12日

かりゆし芸能公演 インタビュー03
玉城流玉扇会 新里直子琉舞道場 新里直子さん

ー 新里直子琉舞道場の主な活動についてお聞かせください。

新里直子先生(以下新里):現在は小学生から一般まで約40名が在籍しており、最年少は4歳です(笑)。主な活動は、名護市や今帰仁村で開催される豊年祭、老人会など、地元密着のイベント、学校行事などへ多く出演してきましたが、最近は中南部で踊る機会も増えてきました。というのも、子どもたちが舞台に立つのが大好きなものですから(笑)。父兄のサポートもあって、若衆芸術祭など大きな舞台にも積極的に挑戦できるようになってきました。私個人の活動としては、運動会で郷土芸能を披露する学校へ出向き、学生への琉舞指導を継続して行っています。母校である今帰仁中学校への舞踊指導は、早いもので8年になります。

ー かりゆし芸能公演「子ども×伝統芸能」で「ルン・ルン・バルーン琉球舞踊」を上演することになりました。本演目のやんばる初上演は大きな話題です。

新里:「ルン・ルン・バルーン琉球舞踊」との出会いは、私自身が初めて出演した2年前。本作は、伝統的な琉球舞踊と風船をコラボレーションさせた作品で、沖縄はじめヨーロッパでも上演を重ねている体感型の人気作品です。ところが驚くことに、これまで沖縄本島北部では一度も上演されたことがありませんでした。踊り手として作品に関わる中で、構成・演出の富田めぐみさんとも親交が生まれましたので、「ルン・ルン・バルーン琉球舞踊」をやんばるの子どもたちに観せたい!とめぐみさんにずっと言い続けていましたから、「よし!やんばるでやりましょう!」とおっしゃってくださった時は本当に嬉しかった。その一方で、北部での上演に関しては不安もありました。北部のお客様が見たことのない創作作品ですから、厳しい意見が出るかもしれないと思ったんです。北部では、各道場の発表会など大人が鑑賞する舞台が主流。浦添市の国立劇場おきなわへ出かければ様々な舞台を鑑賞できますが、北部からだと移動も大変ですから、鑑賞が遠のいているのが現状です。正直、めったに行けません!ですが「ルン・ルン・バルーン琉球舞踊」には、舞台に立つ楽しさ、踊りを観る楽しさがギュッと詰まっているので、絶対に素晴らしい舞台に出来る!という確信がありましたから、公演が決定してからは、お客様を驚かせるような演技を目指して、子どもたちと一生懸命お稽古を重ねています。

ー 本公演には、北部でも頑張れば大きな舞台が上演できるんだよ!という新里先生のメッセージが込められているような気がします。

新里:そうなんです、やんばるの子どもたちはハジカサーグヮー(恥ずかしがり屋)なんですね…。ここ最近やっとですよ!男女で向き合っても照れずに笑顔で踊れるようになったのは。今回の舞台に関わることで、子どもたちが積極的になってきましたし、この経験を通して、今まで以上に前向きな気持ちを持ってくれるのではないかと期待しています。また、本舞台の装飾や衣装にふんだんに使われているバルーンは、沖縄県出身のバルーンアーティスト仲宗根麗さんによる仕事ですし、演出の富田めぐみさんはじめ、舞台監督、スタッフも全て地元名護や県出身の先輩方ばかり。皆んなが育った地元名護や沖縄にはこんなに素晴らしい先輩たちがいるんだよ、ということを子どもたちに感じて欲しいという想いもあります。

ー 子どもたちへ指導する際に大切にしていることはどんなことでしょう。また難しいと感じる部分についてお伺いします。

新里:子どもたちの心が安定するのは小学校3年生くらいから。ですから、それまでは楽しい気持ちをそがないよう、「来たい時においで」「踊りたい時に踊ってごらん」と自由にさせています。でも3年生に上がった途端、ビシバシ指導しますよ。特に、遅刻や忘れ物に関しては厳しく接しています。そこはお稽古ごとですので、私の中で譲れないポイント。
 子どもたちへの指導において難しいと感じる部分は幾つかありますが、特に男の子の場合、踊りをやっていることを隠す時期がくるんですね。そういう時は、踊りをやっていることは恥ずかしいことじゃない、逆に「舞台があるから見に来てよ!」とお友達を積極的に誘いなさいとアドバイスしています。だって、琉球舞踊はじめ三線、太鼓は沖縄のアイデンティティーでしょ。「もっと自信を持ちなさい」と子どもたちにはいつも言っています。

ー ご苦労もたくさんあると思いますが、子どもたちの成長する姿を間近に見れるのは指導者としての醍醐味でしょうか。

新里:不思議なもので、子どもたちは本番に力を発揮してくれます。本番が良すぎて感動することもあるくらい。だったらお稽古からしっかりやってよ!と思うこともありますけど(笑)。最近のお子さんはほとんどが部活動にも所属していますから、配役を考える際には正直心配することもあります。でも、「野球は野球、踊りは踊りでやりたい」そう気持ちを切り替えてよく頑張ってくれますから、この子たちは本当に舞踊が好きなんだなぁと、私自身が再確認するわけです。
 私の一番弟子に宮城愛さんという舞踊家がおりますが、彼女は今帰仁村の古宇利島出身。幼稚園生の頃から週2回、名護の道場まで船で通ってくれて高校卒業までお稽古を頑張ってくれました。そんな彼女が最高賞を受賞した時は、感慨深いものがありました。
 これはあくまでも私の願望ですよ。将来、愛さんが教師免許を取得して北部地域で舞踊道場を開いてくれたら、一緒にやんばるを盛り上げられるなぁと勝手ながら期待しています(笑)。

ー 若手の活躍についてはどういう印象をお持ちでしょうか。

新里:私が小さかった頃は、母のいいつけもあって、踊り以外は何もさせてもらえなかったので、今の若手が羨ましい。もちろん基本は琉舞ですが、三線、うちなー芝居、組踊と垣根なく挑戦することで演者として深みが増しますし、一人一人の芸の幅が広がれば、楽しい舞台が今以上にたくさん作れると思います。玉城流玉扇会二代目家元の玉城秀子先生は「古いものを守るためには、新しいものを作っていかないといけない」そうおっしゃってくださいますし、クラシックバレエなど様々な身体表現からヒントを得なさい、ともおっしゃってくださる。その柔軟な考えのもと、指導する立場の私たち大人が積極的な姿を見せていくことは、子どもたちの成長にとっても非常に重要なことだと思います。

ー 新里先生が舞台に立ち続けられる原動力とは。

新里:玉城流玉扇会という大きな柱と、芸能を愛する仲間の存在が私の支えです。その支えが大きな安心感につながっていますし、安心感があるからこそ、自信を持って舞台をつくれていると感じています。そして、お稽古に来てくれる子どもたち、サポートして下さる父兄の皆さん、応援してくれる地域の方々が何よりの支え。そう考えると、私の原動力は「人」と言えるかもしれませんね。もう一つは、名護を元気にしたいという想い。今、名護は複雑な問題を抱えている状況で元気がありません…。本公演のように、子どもたちが活躍して、明るくて元気が出る舞台を継続して北部地域で上演できれば、少しはパワーを与えられるかもしれません。
 私は舞踊以外何もできません。生涯踊り続けることが皆さんへの恩返しだと思っていますから、きっと、死ぬまで踊るんでしょう(笑)。

ー 新里直子先生の「夢」とは。

新里:私の「夢」は、子どもたちを県外・海外公演へ連れて行ってあげることです。なぜそう考えるのかと言いますと、15年前になりますが、門下生の子どもたちをアメリカ・ワシントンDCで開かれた桜祭公演に連れて行く機会に恵まれたんです。その時は中学生だけを連れて行きましたが、「琉球舞踊は世界に感動を与えることができる」という確信を、子どもたちは自らの肌感覚として得ることができたんですね。ですから、あのワシントン公演に出演したメンバーは現在でもお稽古を継続しており、当道場の先輩クラスに育ってきています。だからこそ、今、お稽古を頑張っている子どもたちを海外へ連れて行き、琉球舞踊公演をやってみたい!という発想につながっているわけなんです。琉球舞踊を通して、子どもたちに広い世界を見せてあげたい。いつかこの大きな「夢」を実現できるよう、私も日々勉強し、芸道に精進いたします。

ー やんばるの子どもたちのさらなる活躍を楽しみにしております。どうもありがとうございました。

取材日:2019年9月1日(日)
取材場所:玉城流玉扇会 琉舞道場

プロフィール

新里直子(しんざと なおこ)

今帰仁村仲尾次生まれ。地域の豊年祭で踊り手として活躍した母から手ほどきをうけ、3歳より舞踊に親しみ、いつしか舞踊少女として話題に。伊江島や糸満市などから出演依頼が相次ぎ、トゥシビー祝い・結婚式などで踊りを披露していた。大学進学を機に玉城流玉扇会に入門。2000年に教師免許を取得し名護市仲尾次に琉舞道場を開設。2015年には道場開設15周年を記念した発表会を名護市民会館で開催した。自身も玉城流玉扇会で稽古を重ねながら、北部地域の子どもたちの指導に尽力している。

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