2020.11.25 Wed
精神科医療現場で取り組まれる芸術活動を再定義する
沖縄県北部の精神科病院に所属する作業療法士が中心となり、「医療とアートを考える会」を立ち上げたのは平成 30 年 12 月。発足間もない同会であるが、県内の精神科病院や老人福祉施設などで、治療やケア、リハビリテーションの一環として取り入れられている芸術活動から生み出される「アート」の価値を社会化すべく活動を行っている。
今年度は、本補助事業を受けて、名護市立図書館での作品展や今帰仁村歴史文化センターのトイ レ・ ア ー ト ギ ャ ラ リ ー(halfwall + bathroommuseum)にて展示、精神科医療の現場を捉えたドキュメンタリー映画の上映会、対談イベント、講習会、ワークショップなどを企画したほか、先進的な活動に取り組む県外の福祉施設や美術館を積極的に視察するなどした。
「患者はアーティストになりうるか」
精神科医療で取り組まれる芸術活動は、その扱いが非常に難しい。医療現場での芸術活動は治療の一環でもあることから、作品展示において、医療上の守秘義務や治療方針などに留意しなければならない。治療を目的とした医療行為から生まれた作品の著作権はどこに帰属するのか、保管はどうするのか、作品公開に向けどのように本人と意思確認するのかなど、患者を「アーティスト」として扱う上での課題が山積みだ。
同会は、そうした医療現場ならではの課題を整理しつつ、カルテとは異なる精神科医療の変遷としてのアーカイブに着手。同時に、著作権の講習会や知的財産権に関するワークショップを企画し、研鑽を重ねた。
今後は、県内外の団体ともネットワークを構築し、芸術活動が雇用(仕事)につながる可能性についても模索していきたいとし、恒常的な作品展示ができるスペースの開設をめざす。
担当プログラムオフィサーのコメント
医療とアートを考える会に参加する作業療法士の皆さんは、非常に多くの「問い」を持っています。「作業療法とは何か」「患者とは何か」「医療現場での芸術活動はアートといえるのか」「病気の時に作った作品を展示して大丈夫か」…。
そうした問いは、「安易に答えを見つけようとするのではなく、問いを吟味し深めていくことに意味がある」。今回、同会が企画した「てつがくカフェ」で、臨床哲学プレーヤーの西川勝先生が投げかけた言葉です。同会の取り組みは、全国的にみても、ユニークかつ難易度の高い試みです。たんぽぽの家やクリエイティブサポートレッツといった先輩方に学びつつ、同会ならではの活動へと育っていくことに期待を寄せています。