2020.11.25 Wed
写真の新たな意義、可能性の模索
撮影された写真には常に「被写体」と「撮影者」双方の関係性が生じている。たいてい、「撮影者」が風景や人物などの「被写体」を切り取る一方向の関係性である。
一方で、県内各所で行われる祭祀はどれもその土地に強くつながる精神文化の根幹となり、その独自性ゆえ、常に他者からの注目を集め、多くの写真家たちを魅了してきた。しかし昨今は生活文化の変化により、祭祀自体の継続は課題を多く抱えている。
本事業は、写真家を中心にしたまぶいぐみ実行委員会だからこそ、一方向になりがちな写真の「双方向」の関係性を構築する、新たな可能性を模索するものだ。当時の記憶が薄れつつある今、写真の持つ「歴史の記録」や「現場の眼」に着目し、現場へ「返す」ことで、時代とともに消えゆく風習、精神文化の復興を目指したい。なお、1970 年代から 90 年代にかけて比嘉康雄氏と上井幸子氏(両故人)によって、沖縄県内の各地で撮られた祭祀写真のネガが、まぶいぐみ実行委員会に管理をゆだねられることとなり、本事業は始まった。
思い出話であふれる展示会場、そして現場へ返っていく写真たち
今年度は八重山諸島に焦点を絞り、祭祀や地域を捉えた写真の展覧会を宜野湾市と、石垣市、また、関連事業として与那国町でも開催。多くの地元マスコミが取り上げたことと来場者による口コミで、短い開催期間にもかかわらず、各会場は連日大賑わい。写真に撮られた同世代の方から、その曾孫世代まで、それぞれの思いを胸に写真と向き合った。
さらに、昨年度、宮古島市で展示したことをきっかけに、東京の国際基督教大学(ICU)の博物館で展覧会開催が決定したほか、宮古島市狩俣で数十年ぶりに祭祀が復活したり、石垣市の白保公民館で開催される「白保ゆらてぃく祭り」や、竹富島や小浜島の公民館などから次々と写真利用について問い合わせが来ており、「被写体」へと返っていく予定だ。
この事業をきっかけに開催された宮古島市狩俣での敬老会の写真展
担当プログラムオフィサーのコメント
本事業を支えているのが強力なアーカイブチームの存在です。学習院大学などの研究者が集まり、比嘉邸で眠る膨大なネガの整理を行っています。ネガの劣化を防ぐための整理作業や、生前の日記やメモを頼りに、撮影日程や祭祀の内容を割り出すなど、細かい作業を大人数で黙々と。また、生前の上井氏のポートレートが比嘉氏の写真から見つかるなど、二人の関係性を記録から想像するのも楽しい時間。
展覧会では、それらの写真に「これは石垣さん?金城さん?」「これは黒島じゃないよ」などと話しながら、来場者が次々と独自の新情報をふせんに記入して貼っていきます。写真をきっかけにそれぞれの持つ記憶が共有され、次世代へ継承される貴重な機会となりました。