2026.10.09 Fri
「めぐる講座」を共同企画した一般社団法人まなびとまちとの宮城潤さんと、沖縄アーツカウンシル チーフプログラムオフィサーの喜舎場梓が対談し、本講座を企画した背景や思いについて語り合いました。
なぜ今、このテーマに着目したのか。そして、なぜ「めぐる講座」を3つのテーマで構成したのか。企画に至るきっかけや課題意識をたどりながら、その意図や目的をお伝えします。

沖縄アーツカウンシル|喜舎場梓
喜舎場梓(以下、喜舎場):沖縄アーツカウンシル『担い手育成プログラム』は、令和5年度にスタートしました。当初は、これからの時代の文化芸術の担い手を発掘することをテーマに『オキナワ担い手未来』というタイトルで、おもにアーツマネジャーの育成に主眼を置き、連続講座や実地研修をしていました。というのも、文化芸術事業を実施するにあたって、プロジェクト設計や組織運営を担えるアーツマネジャーが不可欠であり、その育成が急がれていたことが背景にあるからです。
『オキナワ担い手未来』では、令和5年度に文化芸術の価値を考える9回に及ぶ連続講座を行ったのち、翌令和6年度に実践編として、那覇市開南にある太平通りの活性化を目的に受講者とともにアートイベントを企画・運営しました。移動演劇や展示、ライブドローイングなども行われました。
プロジェクトを終えて、実際にアーツマネジャーとして活動を続ける方が出てきたことは成果だったと思います。
2年間の『オキナワ担い手未来』を終え、次にどのような担い手の育成が必要かを改めて考えなおすことになりました。そこで、アーティストや実践者、アーツマネジャーは何に困っているのか、何を解決すれば、次の展開が見えてくるのかを洗い出しました。関係者に聞き取りをする中で、アーティスト同士の横のつながりが希薄で、自分の作品について気づきを得る場を県内で探すことが難しく、「アーティストは孤独だ」という言葉を耳にしました。
令和7年度は、ヒアリングの結果を受け、参加者を表現者に絞り、『めぐるプロジェクト』と題して、4つのプログラムを立ち上げました。ひとつは、伝統芸能の現場を見る「芸をめぐる」。次が、精神疾患のある方々とともに演劇ワークショップを行う「心をめぐる」。3つめは、水納島を訪問して地域の方々のお話を伺う「島をめぐる」。最後は、「『(空白)』をめぐる」と題し、3つのフィールドワークを踏まえ、参加者にアウトプット(展示・上演)をしてもらいました。
この時は写真家、イラストレーター、画家、造形作家、劇作家志望の学生など5名が参加しており、その後もこのグループでの展示を企画されていると、嬉しい報告もいただいています


一般社団法人まなびとまちと:宮城潤さん
宮城潤(以下、宮城):担い手育成プログラムについて改めて伺ってみると、表現活動に携わる方々が、自分の足元、地域の文化を担ってきた人たちの想いや取り組みなどを知らないという状況があったように思います。改めて自身の立っている足元をしっかり見つめることが必要だと感じています。そこが、今年度のめぐるプロジェクトに続く部分になりました。
喜舎場:はい。めぐるプロジェクトでは、まさにそこが大きな軸になっていたと思います。令和5年度沖縄文化芸術の創造発信支援事業のアドバイザリーボードによる総評でも触れられていますが、伊波普猷(いはふゆう)の「深く掘れ己の胸中の泉、餘所たゆて水や汲まぬごとに(自分の立つ場所を深く掘れ、そこには泉がある)」という言葉は、現在の沖縄アーツカウンシルにおける地域への眼差しを支える考え方の一つとなっています。
振り返ってみると、補助事業に応募する県内の文化芸術事業者は、暮らしや地域をテーマに活動をしている方が多いという傾向に気がつきました。一方で、地域に深く関わるからこそ、多様な価値観や立場との丁寧な調整が求められます。価値観に少しずれが生じただけでも、関係性に影響を及ぼし、その後の活動に難しさをもたらすこともあると思うんです。
【再掲】アドバイザリーボードによる総評|令和5年度沖縄文化芸術の創造発信支援事業

宮城:文化は、コミュニティの中で培われてきた生活様式や精神性が表れたもので、それが連綿と続くなかで育まれてきたのだと思います。文化はコミュニティを強固にする一方で、こうでなければならないという作用を引き起こすことがあります。文化のしなやかさを養うためには、文化を守り継承していくと同時に、新たに創造していく営みが必要です。芸術は個々人の感性に働きかけ、価値観を更新していくものです。文化的思考と芸術的思考そのどちらもあってこそ、より豊かな土壌をつくれると考えています。
その意義がしっかりわかる人が担い手であってほしい。そこで、今年度の3つの講座は、自身が立脚する足元を深掘りするということをテーマに考えています。
喜舎場:今年度の第1回『地域介入の作法』は、これまでの補助事業で生じた課題に端を発しています。地域に根差した活動といえば聞こえは良いですが、地域への介入とは、外部者が地域の文化や暮らしに関わることでコミュニティや文化そのものに変化を促したり、新しい価値を生み出したりするということです。ですから、その変化にとまどうこともあれば、ときには対人トラブルにつながることもあります。地域住民の主体性を損なうことなくどのように関わっていけばよいのか。沖縄アーツカウンシルとして、いま改めてこうした地域への関わり方に関する課題を議題として取り上げ、参加者のみなさんとともに考えを巡らせていきたいと考えました。
第2回『現代アートの浸透力』は、パーラー公民館を取り上げます。パーラー公民館は、沖縄アーツカウンシルの補助事業の成功事例として説明する機会が多い取り組みです。ですが、パーラー公民館の内容を熟知しないまま、成果として取り上げられることが多い。私たちも含め、改めて学びなおすタイミングにあると思いました。
第3回『深く問う眼差し』は、繰り返しになりますが、自分の立脚している場所から考えるという点から企画しました。地域の歴史や習慣、暮らしそのものを深く見つめながら、自分たちの活動を俯瞰し、地域のなかで文化芸術活動を担うことを考えられればと思います。

宮城:芸術が地域に介入することで、いろんなことが揺さぶられる。それは、とてもデリケートなことでもあります。新たな価値を生み出す可能性もありますが、同時に暴力性も孕みます。その危うさを自覚した上で、意義や可能性を信じて活動することが大切です。
第2回『現代アートの浸透力』で取り上げるパーラー公民館は、地域づくりや社会教育実践者に関心を持たれています。例えば、「公民館のない地域に公民館機能だけで場をつくるという発想がユニークだよね」というふうに。でも、パーラー公民館に欠かせないのはアーティストやアートNPOが関与しているという点なのですが、フィールドが異なるとそこに気づきづらい現実があります。アートだからこそ、地域の方々のクリエイティビティを刺激してきたと思いますが、社会教育領域では、アートを切り口にした取り上げ方がされていないんです。
この講座では、アートの文脈からパーラー公民館を見なおし、価値づけしていく。文化芸術の担い手だけではなく、社会教育やまちづくりの担い手にも知ってもらいたいですね。
第3回目は、まさにめぐるプロジェクトの全体を表した内容になっています。文化的な暮らしというのは、言葉にすれば平易だけれど、それはいったいどういうことなのか?暮らしの中に根付いているさまざまなことを、ひとつひとつ確認しながら進めていくこと。出来事そのものに着目してじっくり見る、考え続けていく姿勢が大事なのではないでしょうか。
事業を先に進めるということも担い手に必要な能力ですが、それ以前に、むやみに前に進むのではなく、これまで辿ってきた道のりを把握し、そこから先に踏み出さないといけません。私自身もそういう視点をもってロジャー・マクドナルドさんのお話を伺ってみたいと楽しみにしています。

喜舎場:以前、宮城さんが話していたことを思い出しました。
学習プログラムは〈意図した学び〉と同時に、〈意図しない学び〉が含まれていると伺いました。
宮城:はい。講座や学習プログラムには、必ず〈意図しない学び〉に出会います。講座に参加する中で偶発的に起こるような〈学び〉を指しています。講座で隣に座った人との何気ない会話から学びを得ることも偶発的な学びです。社会教育の現場では、こうした多様な学びが起こりやすい環境づくりや、意図しない学びを次につなげていくような促しが求められます。
喜舎場:今回の講座でも〈意図しない学び〉にも着目していきたい。事業をつくることを目的化してしまいがちですが、改めて文化芸術を問いなおし、〈意図しない学び〉に対しても意識的であることで、気づきを得られる機会になることを願っています。
![]() |
|
喜舎場梓 |
![]() |
|
宮城潤 |
オキナワ担い手未来(2023年度)
【オキナワ担い手未来レポート】chapter.1 文化芸術の価値とは何か
【オキナワ担い手未来レポート】chapter.2 自己組織化できるチームづくりを考える
【オキナワ担い手未来レポート】chapter.3 「地域芸能」から考える地域の未来
【オキナワ担い手未来レポート】chapter.4 地域のコニュニケーションをデザインする
【オキナワ担い手未来レポート】Chapter.5 文化芸術に事業性を持たせるために
【オキナワ担い手未来レポート】Chapter.6 オルタナティブスペースの運営と取り組み
【オキナワ担い手未来レポート】Chapter.7 デザインとはどういった術なのか
【オキナワ担い手未来レポート】Chapter.8 アートプロジェクトのディレクションと運営
最終回!【オキナワ担い手未来レポート】Chapter.9 報告会及び講評会
オキナワ担い手未来~実践編~(2024年度)
【実践編開始!】オキナワ担い手未来 ーアーツプロジェクトを実践する人たちを育てるー
めぐるプロジェクト(2025年度)
「めぐるプロジェクト」スタート。
Report: めぐるプロジェクト第1回目「芸をめぐる」~組踊との出会いが問いかけたもの~
Report: めぐるプロジェクト第2回目「心をめぐる」~心を聴き、心を演じる~
Report〈前半〉: めぐるプロジェクト第3回目「島をめぐる」~水納島の風景から感じるもの~
Report〈後半〉: めぐるプロジェクト第3回目「島をめぐる」~水納島の風景から感じるもの~
Report: めぐるプロジェクト最終回「 」をめぐる ~めぐり、見つめ、形にする~
【本ページに関するお問い合わせ】
公益財団法人沖縄県文化芸術振興会 沖縄アーツカウンシル
「めぐるプロジェクト」担当(喜舎場・橋口・古俣)
TEL:098-987-0926
E-mail:info-ninaite@okicul-pr.jp
主催・企画制作:公益財団法人沖縄県文化芸術振興会 (沖縄県受託事業「令和8年度沖縄文化芸術の創造発信支援事業」)
共同企画:一般社団法人まなびとまちと