特集記事 | かりゆし芸能公演
2024.10.09 特集

【公演レポート&出演者インタビュー】8月25日「第3回 高校生選抜かりゆし芸能公演」

取材日:8月25日(日)
取材者及びライター:たまきまさみ

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 今年で3回目となる「高校生選抜かりゆし芸能公演」が、8月25日に国立劇場おきなわで開かれました。本公演にさきがけて「第12回沖縄県高校生郷土芸能ソロコンテスト」が6月に行われ、三線・舞踊部門それぞれで金賞を受賞したみなさんが、県立芸術大学に在学し芸能の道を志す先輩方や、実演家として舞台に立っているみなさんとともに、ひとつの舞台を作り上げました。受賞者の高校生たちの演舞や斉唱・独唱を中心に、11の演目で構成された公演のレポートをお届けします。

  幕開けは「かぎやで風」。厳かに場を清めるような空気と少しの緊張感が漂うなか、幕が上がりました。踊りや地謡を務める芸大生の中には、去年は受賞者としてこの舞台に立ったメンバーの姿もあり、芸の道をさらに極めるための意思の表れにも感じられ、先輩としての貫禄もうかがえるうれしい幕開けになりました。続いて親しき者が再会を果たして喜ぶ心情が描かれる「ごえん節」、伊集の木に咲く花のように美しくなりたいという願いを描く「辺野喜節」と、それぞれ歌三線が声をひとつに合わせて、まっすぐこちらを見据えて歌う姿が印象的でした。

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 舞踊の演目では今回、宮城能鳳氏の振付で構成されたという「日傘踊り」。比嘉彩花さんが品格漂う舞を見せながらも、どこか初々しさも感じられる清らかな雰囲気が心に残りました。高校生という今の年齢だからこそ出せる空気感なのかなと思いつつ、これから経験を重ねるうちにどんな雰囲気を漂わせて踊るのかも楽しみになりました。

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独唱では石垣正城さんが滋味深い歌声を響かせた「仲風節」、哀愁漂う詞の世界に引き込まれた比嘉一朴さんの「述懐節」、柔らかな高音と力強さも印象的だった大保舞紗さんの「散山節」と三者三様に、自らの声と三線の音色でそれぞれの表現で観客を魅了しました。

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 第2部は、舞踊の演目で「海のチンボーラー」の奥本美紅さん、喜屋武和栞さんのコンビが、生き生きとダイナミックに踊る姿が見ている観客の心を弾ませ、ふたりの登場から客席には笑顔が広がり、息の合った演舞を見せるふたりと観客が一体となって楽しめた演目でした。「鳩間節」では川満千晴さんが島の豊穣を喜び感謝する詞の世界を、どこか島の郷愁を思わせる曲調に乗せて真摯に踊る姿が心に残りました。下手に戻って行く前にぴょこんと跳ねると拍手が湧き、生真面目な演舞の中に愛らしさが垣間見えて小さな笑いが起こった瞬間でした。

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 ラスト11番目の演目は「走りよー舟小」。去年もラストを締めくくったこの演目は、受賞した高校生たちの門出を祝うという印象を持ちながら去年は見ていましたが、今年は最後の高校生選抜の舞台となる出演者がいたり、高校生たちが表情豊かにのびのびと軽やかに演目に溶け込む姿に、肩の力が抜けているのを感じて安心しました。大きな手拍子と指笛が響くなか、温かな雰囲気の中で次の目標へと旅立っていく高校生たちを客席みんなが親戚のような感覚で見送ったのではと思う瞬間もありました。舞踊の受賞者とともに地謡として同じ高校生の受賞者が支えている演目もあり、お互い心強さを感じながら舞台に立つことができた日だったように思います。

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公演を終えて、三線部門の比嘉一朴さん、舞踊部門の奥本美紅さん、喜屋武和栞さんにお話をうかがいました。比嘉さんは小学1年生から古典を学んでいることや、高校1年生のクラスの自己紹介で「三線が趣味」と話したこともきっかけとなり、担任の先生からソロコンの情報をもらって受けたことから、去年から2年連続で高校生選抜に出演しています。今年が初出演となる奥本さんは「みんなとの交流を深めながらも、自分自身の踊りもさらに磨いて良いものにしていきたい」、喜屋武さんは「これからの舞台活動に生かせる貴重な経験ができる」という思いで、それぞれ出演を決めました。高校生選抜を終えて、3人に率直な感想から聞かせてもらいました。

 比嘉さんは
inter07.jpg「国立劇場の舞台という滅多にない場所で、独唱できたことがとてもうれしかったです本番はとても緊張して歌うことで精一杯で、歌詞の意味を伝えることはかなり難しいと感じ、もっと頑張ろうと思いました。アンケート結果を見て、かりゆし公演全体としてお客さんに感動を与えることができてよかったです。来年は真ん中で歌いたい! 欲を言うなら地謡もしたいです!!」と今回の舞台の感想を踏まえ、来年への思いを強くしていました。名護の師匠のもとに通って稽古を重ね、「述懐節」の意味や師匠の演奏を通して学び、演奏者の違う「述懐節」を聴き比べながら、感情の込め方も意識したとも付け加えてくれました。

 

 舞踊部門の奥本美紅さんは
inter06.jpg「今回、私は『高文連会長賞』に選んでいただいたこともあり、いつもの倍は緊張しましたが、本番は楽しく思い切ってやりきれたので、とても達成感に満たされました。また、芸大生の方々と共演した『走りよー舟小』では、気分の上がるような踊りで、芸大生の先輩方、高校生の全員が出演したこともありとても楽しく、良い経験になりました。華やかで活気のある舞台に出演させていただきありがとうございました」と本番の舞台裏の空気感も想像できるような感想に加え、「今回の舞台を経て、お稽古を重ねながら自身の芸をさらに磨いていきたい」
という前向きな言葉もありました。

 同じく舞踊部門の喜屋武さんは、
inter07.jpg「本公演へ出演させていただくことが決まった時、楽しみと思う半面不安もありましたが、芸大の先輩方や共演したことのない同世代の方々と踊るうちに、会話も増えて楽しく稽古ができました」
と稽古の様子を思い返しました。また、本番では「フィナーレの「走りよー舟小」を踊っている時に、見に来てくださったお客さまの中にも一緒に踊っている方や、楽しそうに手拍子をしている方を見つけて、琉球芸能のすばらしさを改めて実感することができた」とのことで、お客さんの反応も温かかったことが伝わってきました。

 思えば2年連続出場を果たした受賞者もいたり、今年ソロコンも高校生選抜も最後の年になった受賞者もいたりと節目の年に当たる3回目なんだなと思いながらも、惜しくも思うような結果が本番で出せず、客席で見ている高校生がいるかもしれないことにも思いが及びました。また、芸大の講師からの学びや先輩方の姿を見て思いを新たにしたり、近くで技術を見て学ぶなかなかない機会にもなったのかもしれません。

 芸大生や芸大講師とのお稽古の経験を通して比嘉さんは「呼吸法や声の出し方を学ぶことができました。 独唱に関して、もっと意見をもらいたいです」と技術的なことへの指導やアドバイスについて、さらなる意欲を見せました。奥本さんは「体を使ってわかりやすい表現をしてくださり、とても伝わりやすく動きが受け取りやすかったです」とお稽古や指導について振り返りました。喜屋武さんは「『海のチンボーラー』は先輩方の演奏に乗せて楽しく踊ることができ、『走りよー舟小』は、かわいい振付とにぎやかな音楽で、踊るたびにワクワクしました。先生方の細やかなご指導のおかげで、心ひとつに演舞ができ、達成感を得ました」との言葉から、お稽古も楽しくできたからこそ、本番も成果を発揮できたことがうかがい知れました。最後にこれからの目標についてもお話してもらいました。

比嘉さん:「高校に入学してから本格的に稽古に励むようになったのですが、少しずつ上達してきていると実感しています。また、歌詞の意味を調べて理解し、歌う時にその情景を思い浮かべながら、歌詞の世界が伝わるような歌い方を練習するようになりました。それでもまだまだ伝えられておらず、ただ曲として歌っているように感じます。これからもっともっと上達して、来年のソロコンテストで高文連会長賞を受賞できるようにがんばります」と目標を掲げました。

奥本さん:「今回の公演で新たな課題も発見できたので、日々のお稽古に取り組み、改善できるようがんばりたいと思います。また、先生方に教えていただいたことや、学んだ貴重な経験を今後に生かしながら、道場の後輩たちにもこの経験を伝え、琉球舞踊の良さをさらに発信していきたいと思います」と今後も精進していくことを誓いました。

喜屋武さん:「来年は最高賞コンクールもあるので、自分の課題としっかりと向き合い、一日一日確実に進歩できるように今までより一層稽古に励みます。そして、たくさんの知識をつけて経験を積み、将来は本公演で改めて感じた琉球芸能のすばらしさを、琉球芸能に関心がない人にも伝えられるような舞台を作れる実演家になりたいです」と将来の展望も教えてくれました。
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 甲子園という誰もが知っている人生の一大イベントで、多くの県民から応援や声援を受ける高校生もいる中で、新人賞やコンクールという新聞社が行うコンテストや、ソロコンに高校生選抜を今の自分の目標として掲げ、芸能の道で自身の芸を磨き、己と向き合い過ごしている高校生がいることも、それぞれの学校の同級生たちの間で少しずつ広がっていくといいなと思う3回目の高校生選抜の舞台でした。幼い頃から道場に通っていたり、小学校、中学校できっかけを経て芸能の道へ入ったりとみなさんの背景はそれぞれ違うと思いますが、沖縄の文化として受け継がれてきた琉球芸能をつないでいく取り組みのひとつであるソロコンや高校生選抜を通じて、芸能に携わる者やそれを支える家族・知人のみならず、芸能に触れたことのない人にも、県内の各高校で芸能に触れている高校生を通して少しずつ広がって知られていくことを願います。

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プロフィール

prof01.jpg奥本美紅(おくもと みく)
沖縄県立具志川高等学校2年。
第12回沖縄県高校生郷土芸能ソロコンテスト 舞踊部門、高文連会長賞。
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prof02.jpg喜屋武和栞(きゃん わか)
沖縄県立北中城高等学校2年。
第12回沖縄県高校生郷土芸能ソロコンテスト 舞踊部門、県立芸大学長賞。
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prof03.jpg比嘉一朴(ひが かずなお)
沖縄県立那覇国際高等学校2年。
第12回沖縄県高校生郷土芸能ソロコンテスト 三線部門、県立芸大学長賞。
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