OKINAWA ARTS COUNCIL

メールニュースニュース登録

トピックス TOPICS

EVENT

2023.02.10 Fri

Report:フォーラム「アーツカウンシルってなんだろう?-沖縄アーツカウンシルの取り組み-」

沖縄県文化振興会が実施する、沖縄アーツカウンシル事業の現状や将来展望を語り合うフォーラム「アーツカウンシルってなんだろう?-沖縄アーツカウンシルの取り組み-」が2022年11月23日に沖縄県立博物館・美術館で開催された。第一部では文化芸術に関わる県内のさまざまな事業者を支援することにより文化芸術活動の持続的発展を図ることを目指す「沖縄文化芸術の創造発信支援事業」の説明、第二部では採択事業者による中間発表、第三部では専門家を交えたディスカッションが行われた。

●第一部「沖縄文化芸術の創造発信支援事業」について 

沖縄アーツカウンシルの上地里佳チーフプログラムオフィサー(CPO) は、「沖縄文化芸術の創造発信支援事業」について、沖縄の文化芸術発展のためのさまざまな事業を行う人や団体(事業者)に寄り添い、伴走する「ハンズオン型」の支援を行っていると説明。「事業者や事業の方向性を見据え、どういった支援ができるのか、話し合って進めていく」と話した。

 「アーツカウンシル」は1946年にイギリスで誕生した。政府や行政から一定の距離を保ちながら文化政策を進める組織といえる。日本では国、東京、大阪などを始め全国に存在し、沖縄県は全国的にも早い2012年度に、文化の産業化を視野に入れた「沖縄文化活性化・創造発信支援事業」を県から県文化振興会が託授してスタートした。その後、5年ごとに事業を見直しながら継続し、10年間で300を超える事業を支援してきた。

 令和4年度から始まった「沖縄文化芸術の創造発信支援事業」では「団体」、「個人事業主」に加え、設立5年未満の団体を対象にした「スタートアップ」枠を新たに設け、補助を行っている。

支援の対象は1.文化芸術団体等の組織力向上・基盤強化に資する取り組み、2.文化芸術を次代に引き継ぐ新たな創造発信を伴う取り組み、3.文化芸術を通じて地域の諸課題解決や活性化の促進等に寄与する取り組みだ。上地CPOは、「事業を行う組織の基盤強化に補助金を使えるのが特徴となっており、具体的には事務局の人件費にあてられることで、文化事業を担う人を支援することを目的としている。支援は専門性を持ったプログラムオフィサーが事業者と伴走し、話し合い、学び合いながら進めていく」と説明した。

 そして、「沖縄アーツカウンシルは公的資金で文化芸術を支援している。その意義は、新しい活動を生み出し、地域や人の暮らしをエンパワーメントするところにある。この視点を大事にしていきたい」と語った。

第二部 「令和4年度 沖縄文化芸術の創造発信支援事業」取り組み紹介
(「団体」、「個人事業主」、「スタートアップ」の補助事業者が、伴走支援を行うPOも加わり発表)

① 沖芸大琉球芸能専攻OB会【持続可能な沖芸大琉球芸能専攻OB会の未来を創る基盤整備事業】

伝統芸能実演家の「マネジメント」に対する意識啓発及びスキルアップの促進を図る事業。金城佳子事務局長は会の運営について「財政や会員の当事者意識の向上に苦労している」と話した。一方、「役員同士は経営の勉強会を通して方向性が一致するようになった。会議もスマートになり、効率よい業務がこなせるようになってきた」と手応えも感じている。会員に向けたマネジメント講座はオンラインも活用して参加しやすい環境をつくった。300人を対象にした会員アンケートには「学校公演にとりくんでほしい」「同期と出演する舞台がつくりたい」などの声があり、会への不満は少なかったという。今後も会員の充実した活動のサポートをできるように務め、長年の課題である法人化を見据える。

②クラシックでしまくとぅば実行委員会【「クラシックでしまくとぅば」連続ワークショップ事業】

沖縄ならではのクラシック音楽の表現を探求し、地域独自の音楽活動の展開を目指して「沖縄独自のクラシック音楽の語り口があるのではないか」という問いを起点に、連続ワークショップを行っている。この事業では琉球芸能やウィーン流派の「訛り(ことばの響きやイントネーション)」に着目。ドイツとウィーンで学んだ渡久地圭さんは「沖縄の外の文化に愛を持ってしまったゆえに、沖縄での展開にギャップや遠さを感じている。沖縄でやる理由やモチベーションを確かめたくてこの事業をしている」と説明した。「世界的にスタンダートなクラシックがあるようだが、実は地域性がある。沖縄の文化背景に迫り、見比べることで、独特の語り口が見つかってくるのではないか」と展望した。

③株式会社918【沖縄を舞台にした映画作品に音声ガイド・日本語字幕を付け、キャラバン映画祭を通して沖縄発映画の新たな鑑賞方法を創出する事業】

視覚や聴覚が不自由な方のみならず、その家族や友人などだれとでも一緒に映画を楽しめるように、沖縄で製作された映画に音声ガイド・日本語字幕を付け、福祉会館や市民会館を会場にして上映会を開いている。本盛聡代表は「沖縄では初の試みなので試行錯誤だ」と語った。例えば車いすの方が好きな場所から観られるように会場を工夫し、バリアフリー上映の運営や制作の向上も図っている。また点字のチラシも制作した。ろうの方から「公開されて間もない映画なのに字幕があってうれしかった」との声が届いたのが嬉しかったという。メディアや自治体の首長へのPRにも取り組んだ。本盛代表は「当事者やいろんな声を聞いて今後の運営や制作に取り入れていきたいと思う」と抱負を語った。

④くらしの中の海洋文化 実行委員会【くらしの中の海洋文化】

沖縄の伝統船サバニの造船技術、 操船技術を軸に、無形の文化財を継承しようと、年齢性別を問わず、サバニに関わることができる環境・コミュニティの形成を目指している。リーダーの三浦藍子さんは、暮らしに根付く海と人間の関わりを「海洋文化」と規定し「ただただ楽しいことをやっている」と自然体。「“もっと知りたい”が原動力となり、文化が伝わる」と前向きだ。帆かけサバニはスポーツや観光の中で継承されているが、女性の関わりを増やす取り組みをしている。三浦さんは大学で海洋物理を学び、気象の会社で大型船の航路を選択する情報を提供する仕事をしていた。「教科書上のことがサバニをやることで自分の体に入ってくる。サバニを産んだ海洋文化はすごい」と地域を巻き込んだ活動を探る。

⑤内間千尋【琉球舞踊を支える担い手の育成・技能継承に関する取り組み】

内間千尋琉球舞踊研究所の内間千尋さんは、琉球舞踊の実演のために欠かせない、化粧や着付け、結髪等の扮装の技能習得のための定期的な勉強会を開催した。また、舞踊に欠かせない音楽の理解を深めるワークショップも行い、「自立した舞踊家を育成するため」とその狙いを説明する。11月には、一連の研修の成果を舞台公演として発表し、扮装技術だけでなく、マネジメントの面なども経験を積むことが出来、多くの学びがあった、と振り返った。研修の中で作成した紙資料や映像資料は参加者の自己研鑽に活用する。

⑥屋宜久美子【沖縄の文化を次代へ継承するワークショップ実践者の育成に向けた基盤形成】

屋宜久美子さんは、アダン葉を用いた細工や養蜂など、沖縄文化や環境資源を活かし体験するワークショップをWSの実践者や幼児教育関係者を対象に、WSの手法や扱う素材の特性、歴史背景について学ぶ機会を作った。参加者からは「沖縄に居ながら知らなかった」「初心に返れた」などの感想があった。屋宜さんは「参加者だけでなく、講師にも気付きがある。その後の展開や交流の場のつながりが生まれやすい」と話した。「技術や方法論も大事だが、歴史的背景や素材がある環境を知ることで教え方、伝え方が変わってくるのではないか。思いや歴史を伝えてほしい」と思いを語った。

●第三部 「沖縄アーツカウンシル」を考える

第三部では、「沖縄アーツカウンシル」を考える、と題して、林立騎(那覇文化芸術劇場なはーと企画制作グループ長)、仲田美加子(沖縄県文化協会会長)、宮城潤(那覇市若狭公民館館長)、若林朋子(プロジェクト・コーディネーター / 立教大学教員)の各氏を迎えてディスカッションした。4氏は、沖縄アーツカウンシルが支援する事業の選定及び評価・検証を担うアドバイザリーボードのメンバー。第二部で発表した事業者とプログラムオフィサー(PO)も参加した。  

沖縄アーツカウンシルの支援状況について若林氏は「ハンズオン型の支援を謳っており、POが対象事業者のことをよく分かっている。対話をすることが大事だと改めて感じる」と述べた。
文化芸術への公的支援について林氏は「文化芸術に公的資金を使うことに理解を得るのが難しい時代だが、沖縄県文化芸術振興条例に、新しい時代を切り開く心のよりどころだと書いてある。沖縄県の素晴らしい公式見解だと思う。沖縄にとって文化芸術は大事だと常にアウトプットする。私も責任を果たしていきたい」。仲田氏も「空を飛びたいと思った人がいたから飛行機は出来た。ことが成るかどうかは熱意の強さだ。行政では経済が優先されがちだが、文化はみなさんが核なので、今日の学び合いを深めていってほしい」。自身も沖縄アーツカウンシルの支援を受けた経験がある宮城氏は「私たちが生きていく基盤として文化芸術は大事だし、公がどう支援していくと良いのかをみなさんを通して考えさせられる」と話した。

フォーラム参加者から、沖縄アーツカウンシルにプロパーの職員や正職員をおけないのかとの問いかけに、上地CPOは「単年度の委託事業でやっているので、人を安定して付けられない。しかしながら県内には沖縄アーツカウンシルでのPO経験者が様々な形で活躍しており、そういった人材とのネットワーク形成や取り組みの共有を進め連携して行きたい」と現状を説明した。若林氏は「公的な機関を育てるのは市民の目だと思う」と話し、専門家育成や、POが長く働ける現場づくりの必要性を指摘した。

林氏は「文化芸術のおもしろさは、学び合いができることだ。採択されると、お金とハンズオン支援がつき、経験や知識を得られるが、採択されないと何もないのは問題ではないか。開かれた学び合いが必要だ」と提起した。宮城氏は「プログラム以外の学び、意図しない学びがある。人が育つのは現場だ。実践されている皆さんが学びのポイントに気づくようにするのがPOやアドバイザリーボードの役割」と話した。仲田氏は「実践に勝るものはない。蓄えた力を発揮し、壁にぶち当たって事業者とPOが意見を交わしあうことで、アイディアが出てくる。人がつながればアイディアの泉になる。1歩も2歩も進歩がある、頑張っていきましょう」と締めくくった。



執筆:真栄里泰球