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2019.04.01 Mon

Report:企業メセナ・シンポジウム「パートナーシップによる企業の文化活動 ~あたらしいメセナのカタチ~」

沖縄県及び公益財団法人沖縄県文化振興会が主催した、パートナーシップによる企業の文化活動「あたらしいメセナのカタチ」と題した企業・文化団体対象のセミナーが、3月1日に県教職員共済会館八汐荘屋良ホールであった。
https://okicul-pr.jp/oac/topics/event190104/)

 来賓挨拶に、公益財団法人沖縄県産業振興公社理事長の末吉康敏氏を迎え、沖縄ツーリスト株式会社代表取締役会長の東良和氏の基調講演、企業と芸術団体二人三脚で行う事例として3組がプレゼンテーションを行った。 

 沖縄ツーリスト東良和会長は、「文化を通じた地域とのつながりづくり」と題した基調講演で、文化を通じた企業とのパートナーシップがどうあるべきか、問題提起をしながら一緒に考えていきたいと切り出した。続けて「いまとにかく観光客を受け入れることに国も県も力を入れているが、量も質も本来は一緒に追いかけなくてはいけない。質を追いかけるときに初めて、交流、相互理解、自然や伝統文化が入ってくる」と力を込める。加えて「視察で青森を訪ねた際、青森ではねぶたのコンテンツに力を入れており、文化をコテに集客を図っていると感じた。文化力を使って景観をきれいにしていく、そして自然を大切にすることが、将来観光で豊かになりどういう町をつくりたいかということが試される部分だと考える」と結んだ。

 

《プレゼンテーション事例1》

「企業のリソースを活かしたパートナーシップ」
(一社)琉球フィルハーモニック+(株)琉球銀行

 琉球フィルハーモニック代表理事の上原正弘氏は、「琉球フィルハーモニックは、大きく分けて4つの団体を運営している。プロの演奏者の活動の場である琉球フィルハーモニックオーケストラと、離島を中心に展開する琉球フィルハーモニックジャズプレイヤーズの活動、子どもたちの育成の場として立ち上げ今年6年目を迎えた那覇ジュニアオーケストラ、そして子どもの居場所づくり事業として、ジュニアジャズオーケストラをスタートさせた」と主な活動の紹介を行い、「どんな家庭環境の子も音楽を通した多様な体験により、生きる力を育むルーティン化した居場所づくり」を目的とした活動の中で不足していた楽器の寄付を集める為に、昨年から今年の1月31日まで琉球銀行のユイマール楽器バンクを通して楽器を募った経緯を説明した。

・創業70周年を迎え、地域社会の発展に寄与する銀行として
 琉球銀行総合企画部地域貢献室の宮城智子氏は、「地域から親しまれ、信頼され、地域社会の発展に寄与する銀行を経営理念として活動を展開している。昨年は創立70周年を迎え、記念行事として万座毛でビーチクリーン、地元久茂地地域のクリーン活動、海外留学支援事業、ユイマール楽器バンク事業を実施した」と琉球銀行の理念と活動内容を紹介。「上原氏からジャズで子どもの居場所づくりを実施しているが、楽器が不足しているという状況を聞き、琉球銀行75店にてパンフレット・リーフレットを設置し、楽器の寄付や楽器提供者13人をつないだ。また、子どもたちの成果発表の場として、昨年末に琉球銀行本店ロビーにて演奏会を開催、多くの人に楽しんでもらえた」とユイマール楽器バンク事業の展開内容の詳細とともに、楽器が集まってからの実例も紹介した。

・事業の自立化に向けての課題
 上原氏によれば、「これまで200社以上にリーフレットや冊子を渡し、寄付や応援の呼びかけを行ったがかなり厳しい状況である。だが、発表会のプログラムに近くの町のお店や企業に依頼し協賛広告を掲載。また、まーさんマルシェやストリートワークアウト日本大会、サンエー那覇メインプレイスでの演奏依頼があり、演奏料という形で支援を得た」と、支援金調達の厳しさを口にしつつも、企業が支援しやすい方法に切り替えたことが功を奏したと語った。また、「今後は自分たちも企業もwin-winになれるような関係をいかにつくっていくか」を課題として掲げ、「音楽を通して子どもたちに自己肯定感や心の豊かさ、生きる力を育んでもらいたい。地域で育む居場所として仕組みづくりに取り組んでいきたい」と力を込めた。

 

《プレゼンテーション事例2》

「地域を豊かにする社会貢献」
(株)ククルビジョン+エアポートトレーディング(株)

 こども国際映画祭in沖縄KIFFOの映画祭ディレクター宮平貴子氏は、「2009年の作品で『アンを探して』という映画の脚本担当と監督を務め、国際映画祭「アジアン・フェスティバル・オブ・ファースト・フィルム」で邦人初の最優秀監督賞とグランプリを受賞。2014年からこども国際映画祭の活動をスタート、その前のプレイベントのときからエアポートトレーディングにお世話になっている」とこれまでの活動を紹介。 続いて、那覇空港ビルディング関連会社で、お土産品などを扱うプライベートブランド「空人 SORANCHU」や土産物として泡盛の「ホワイトタイガー」などを展開しているエアポートトレーディング代表丸橋弘和氏が、「社会あるいは地域に感謝され求められる企業であることが社員を幸せにするという理念のもと、2013年からKIFFOの支援のほか、琉球ゴールデンキングスやFC琉球、コラソン沖縄、授産施設、沖縄ダルクなどに支援をしている。企業としてできる限りのことをやる」と企業理念とともに、幅広い社会貢献活動を説明した。

・映画はココロの栄養
 宮平氏は自身の体験を踏まえ、「映画と聞いて思い浮かぶジャンルは多種多様。映画の多様性はすばらしいことであるが、そのイメージの幅が映画に対する支援を難しくする原因にもなっている」と課題を挙げ、「良質な映画はさまざまな立場で人生を疑似体験でき、そこにKIFFOが掲げる『みんな違ってあたりまえ』という原点がある。ククルビジョンがめざす映画とは、音楽・映像・演技、さまざまなアートの力がひとつになって他者に共感する芸術である」と、芸術としての映画の意義を提言した。
 また、こども国際映画祭について「①子ども目線の映画を日本語吹き替えで上映し、②異年齢の子どもスタッフが審査員や司会、受付などやりたいことに挑戦、③子どもの主体性重視と安全の両立のため、大人ボランティアスタッフの育成も行う。④人生を左右する事項は『こどもには早い』とタブー化せず『知りたい』をサポートする」とスライドを用いて4つの特徴を説明し、「子どもスタッフになれる小4から中3までは、体と心の多感な時期であることから思春期保健相談士と協力して体のことを教える。性の部分は映画で表現しにくいことから、講座を開いてサポートも行っている」と子どもたちと向き合う体制が整っていることも強調した。
 そして、宮平氏は「丸橋社長との関わりのなかで、継続するための仕組みづくりの大切さや社員を大事にして利益を出すための工夫を怠らないこと、また事務局の必要性、広告協賛のメリットを分かりやすくすることなど多くを学んだ」とこれまでの活動を振り返った。

 

《プレゼンテーション事例3》

「社内のつながりを生む『創業者物語』」
(一社)おきなわ芸術文化の箱+金秀グループ

 「金秀グループは1947年5月創業、10社で構成するグループ企業で、従業員5000人、事業は建設や小売などを主に展開し、暮らしの中の金秀グループとして誠実、努力、奉仕という社訓のもと、今年72周年になる」と金秀鉄工株式会社の前東一徳氏から金秀グループについて紹介があり、おきなわ芸術文化の箱の理事である当山彰一氏は「一般社団法人おきなわ芸術文化の箱は、2017年にアトリエ銘苅ベースという民間の小劇場の建設を行い、芝居の創作をしている」と続けた。

・金秀グループ創業70周年の節目につくった「創業者物語」
 当山氏は「金秀が70周年を迎えるにあたり、『創業者物語』をつくってくれないかと依頼があった。10社あるうちの9社から、それぞれ1~2人ずつお芝居に出るため社員が右も左も分からない状態で派遣されてきた。お芝居は足を運ばなければ分からない文化のひとつだと思うが、それを経験したなかで前東さんが感じたことがたくさんあると思う」とこれまでの経緯を振り返りながら、前東氏に問いかけた。
 それに対して前東氏は、「最初は嫌々だったのが、稽古が楽しいと思うようになり、演技に磨きがかかった。『このままこの道に進むのではないか』と役員が心配するまでになった。私たちの仕事とは全く違う世界だが、それだけ演劇には魅力があり、企業として演劇からもっと学ばなければならないと、当山先生を通して教えられた」と演劇を通して受けた刺激と自身の変化を口にした。

・文化の力による相互理解
 当山氏は、「『創業者物語』の本番を迎えるにあたり、中堅の方に創業者になってもらったが、稽古を重ねるうちに彼はどんどんリーダーになり創業者になっていった。『創業者物語』を毎年の入社式で上演してみてはどうか。演じた役をこれからの世代へ次々と伝承し、そこにグループ役員の方たちが入って当時の話をする。そうすると創業者を体感した方たちがたくさん出てくる。お芝居、文化の力を使って相互理解をすることができるのではないか」と、この経験から文化の力による可能性を示唆し、金秀グループに限らず、会場内の参加企業での取り組みも呼びかけた。
 それを受けて前東氏は、「わが社にはさまざまな社員研修があるが、自ら演技をすることで多くを学んだことに気づいた。創業者の気持ちになり、戦後で食べ物がなく畑が荒れていた状況のなかどうすべきかと考えた。演劇というひとつのアイテムを通して我々に根気強く演技を教えてくれた当山先生の働きは、今回のタイトルにある『メセナのカタチ』だと感じた」と 文化による学びが企業のなかで重要な役割を果たしたことを力説した。

 

●パネリストによるトークセッション

企業と文化団体が協働する意味
~企業のメリット、文化団体のメリット、地域・社会のメリット~」

 「企業と文化団体が協働する意味~企業のメリット、文化団体のメリット、地域・社会のメリット~」と題し、事例紹介を行った全6人が登壇、弊会チーフプログラムオフィサーの樋口貞幸が進行役を務めた。宮平氏は、「エアポートトレーディングの泡盛と自社の映画のプロモーションがマッチングする企画を提案した」とアプローチが成功した実例を紹介。会社の設立を演劇で紹介する取り組みに挑戦した当山氏は、「記念誌や5年ごとの資料をまとめ、70年の歴史を凝縮させて10分の物語にした。創業者本人がとても喜んでくれて、演じた社員もそれを感じ取っていた」と初の試みを振り返った。上原氏は「通り会や町づくり協議会に加盟し、会議にも参加した。地域や企業の考え方、どうすれば支援しやすくなるのかという情報とともに、演奏でその地域を盛り上げながら子どもたちの活動を見てもらい、お互い理解を深めて応援してもらう方法に切り替えた」と支援につながるこれまでの経緯をたどり、宮城氏は「必要な部分をサポートできる体制を多くの企業が取り組むことにより、もっと社会がよくなっていくのではないか」と提言した。終わりに、樋口が冒頭の東氏の基調講演にふれ、「3事例に共通するのは、一方的な支援の要請ではなく、ソーシャルアントレプレナーシップ(社会的起業家精神)に基づく双方向の関係構築だった」とまとめ、約4時間に及ぶセミナーを締めくくった。

 

(執筆:たまきまさみ)