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2024.05.07 Tue

見て、聴いて、触れて、話して、食べて。YUUREEGWa 2023>2024 〜令和5年度沖縄文化芸術の創造発信支援事業 事業報告会〜

 

YUUREEGWa 2023>2024」が2024年323日(土)に開催されました。令和5年度に支援した20事業者が集い、この1年間で取り組んだことや得られた成果、今後の課題などについて発表しました。また会場には、20事業者の取り組みを紹介するブースがあったり、ステージ発表や演奏体験、さらには3時茶(さんじじゃー)に琉球菓子のふるまいがあったりと、見て、聴いて、触れて、話して、食べて、楽しめる事業報告会となりました。本レポートでは、各事業者の発表とアドバイザリーボードのコメントを要約してご紹介します。

>イベント概要はこちら https://www.okicul-pr.jp/oac/topics/yuureegwa2023-2024/
>事業者概要はこちら https://www.okicul-pr.jp/oac/wp-content/uploads/2024/03/R5_jireisyu.pdf

 

【グループA】

「藍のある生活」推進事業/株式会社島藍農園
“藍”に関心を持つ方が予想以上にいることに手応えを感じた。特に学童や小学校の先生方の興味・関心が高かった。今後、学校からの体験プログラムの実施要望に備えて、指導できる人材を育てたい。その上で藍、染色に興味ある方をどう惹きつけていくか模索したい。
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くらしの中の海洋文化/くらしの中の海洋文化実行委員会
本事業を通してつながった3名の方が「舟を造船したい」と立候補してくれた。また他地域で木造船に関わる方から、「沖縄のサバニは和船の“希望の光だ”」という声を頂戴した。今後は記録した造船の技術などを活用して、師弟関係ではなくワークショップ形式で舟のつくり手を育てたい。将来“船学校設立!? ”にまで夢が広がった。
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“ひめゆり”を伝えるワークショップ開発・実践プロジェクト/公益財団法人沖縄県女師・一高女ひめゆり平和祈念財団立 ひめゆり平和祈念資料館付属 ひめゆり平和研究所
コロナ禍で断念したハワイでの展示会を実現。海外の研究機関とも連携を築くことが出来た。ハワイではこれまで、軍隊の視点で戦争を知ることが多かったが、市民の視点で戦争を捉えることができた、という感想もあった。今後も各地域の皆さんの視点でひめゆりや沖縄戦を知ってもらえるよう取り組んでいく。次年度以降はハワイ、また県内の離島(久米島、石垣島)でも移動展を実施予定。
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クラシックでしまくとぅばワークショップ事業/一般社団法人ビューローダンケ
ウィーンで活躍する演奏家の方々と、公募で募った学生や若手演奏家を対象にワークショップを実施した。文化人類学者や言語学者も交えて実施した2年目の取り組みでは、ウチナーンチュがクラシック(西洋音楽)を沖縄でやることの意味や違和感を意識して持ち続けていくことに意味があること、そういった個々人のありようが共有されることで意義が立ち上がっていくことを意識化することができた。沖縄のクラシック演奏家自身が、自身の語り口、音を手にしていくことに向けて今後も探求し続けたい。
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沖縄に自生する月桃の調査、研究、普及事業/Sonda Studio 吉本梓
本事業を通して、月桃に関する沖縄県内や台湾での調査と、その調査結果をまとめた冊子とwebサイトを制作することが出来た。沖縄県立博物館・美術館では、月桃の民具と思われる資料を発見することができたし、台湾の方々との交流は調査後の今も続いている。今後は月桃に興味がある人とのコミュニティづくりにも取り組んでいきたい。

【グループB】

組踊「大城大軍」における次代へ継承する新たな事業の取り組み/南城市大城区文化保存委員会
八重瀬町志多伯に協力いただき、互いの芸能を披露し合う交流会などを計画・実施した。改めて“交流することの重要性”を痛感した。徐々に子どもたちが公民館に集まるようになってきたし、伝統芸能や行事へ関心を持つ地域の方も増えた。地域コミュニティの再発展に期待が高まっている。今日は子どもたちだけで組踊「大城大軍」を披露しますので、どうぞお楽しみに!
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沖縄芝居における大道具製作の技能伝承/沖縄芝居研究会
沖縄芝居に欠かせない大道具を作る人材不足が深刻で、120年の歴史がある沖縄芝居が上演できなくなるのではないか、そういう強い危機感を持っている。長年大道具の製作を一手に担ってきた新城喜一さん、榮徳さん兄弟の指導のもとワークショップを実施できた。でも実は、一番変わったのは、私たち役者の視点だったとも思う。課題は、大道具製作に欠かせない広い場所の確保。早急に対策を講じなければと感じている。
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持続可能な沖芸大琉球芸能専攻OB会の未来を創る基盤形成事業 続編/沖芸大琉球芸能専攻OB会
昨年度は会員の意識調査などを実施。2年目となる今年度は、調査を通じて可視化出来た「学校公演がしたい」という明確な目標を掲げて、実現するべく動くことができた。今年は創立20周年の節目で5月に大規模な公演を計画しているし、法人化へ向けても動いている。その布石として、OB会で事務所を構えることも決定。活動の拠点が出来たことで申請なども大変スムーズにいくようになった。
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かまどでつくる琉球菓子伝承事業/楠木千珠
応募段階で決めた計画を全て実施することが出来た。「かまどでつくる琉球菓子の勉強会」(昨年7月〜11/5回)では多くの方にご参加いただけたほか、暦と琉球菓子のつながりを可視化した旧暦カレンダーの制作・配布も実現した。“お菓子づくりを通して歴史も学べた”と好評だった。今後は、琉球菓子のプロデュースなど、琉球菓子の魅力を探求・発信していく。

 

【グループC】

音楽の力で人、街を元気に!/特定非営利活動法人琉球交響楽団
名護市で支所めぐりコンサートを実施し、琉球朝日放送(QAB)のニュースでも取り上げていただいた。またフラダンスとの共演にも手応えを感じた。心に残ったことばを紹介します。「最初は聞いていて、心が美しくなった。最後には、生きる希望が湧いてきた」。今後も本活動を継続し、音楽の力で人、街を元気にしていきたい。
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スタートアップ!With Art うらそえ/With Art うらそえを考える会
浦添の文化資源を活用したいとの想いで始めた取り組み。補助を受けて1年目ですが、思いの外成果があった。計画した3つの事業に取り組む中、多くの方に関わっていただくことができ、あちこちで科学変化も起こった。課題も見えてきたので、数年かけて活動を継続し、色々なことを形にしていきたい。
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場所の空間と商人の物語/一般社団法人コザミクストピア
コザ銀天街の皆さんにご理解、ご協力をいただき、地図や写真、映像などを用いて商店街をインスタレーション化することが出来た。ここでの発表では言い尽くせないほどの出会い、ふれあいがまちに溢れていました。まちに当たった光は、今後の可能性であると確信している。コザミクストピアのビジョンとして掲げている目標、本の出版と映画の完成を目指していく。
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アオツバメからとどけるアート/AOTSUBAME 根間智子
都市部と離島間における文化芸術にふれる機会の格差を重要な問題と捉え、宮城島で恒常的に地域にひらかれた「場」を創設することを目指し取り組んでいる。展覧会「離れている島」を開催して、島の人たちへアート体験を提供することができた。離島の宮城島に新しくアートの拠点が出来たことが大きな成果である。※残念ながらご本人は参加できず、担当プログラムオフィサーの具志幸大さんが代理で発表した。

 

【グループD】

「基地とハーフ」多様なルーツを持つ人のアイデンティティ形成過程とその葛藤をドキュメントした映像作品/太田あきの
沖縄アーツカウンシルへ相談した当初は、DNA検査で父が見つかって1年経ったくらいの時期で、心の整理がつかない状態でした。改めて、機会を与えてくれた沖縄アーツカウンシルに感謝したい。私個人の人生のドキュメンタリーだけど、多くの皆さんに共有してもらえるんじゃないかって思っています。今後も継続して上映会(シェア会)を行って、みなさんと語り合いたい。
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自分が描いた漫画のウチナーグチ版と英語版を作る事業/中村夏実
以前登壇したあるシンポジウムの打ち上げで口にした“夢”が、「私が描いた漫画本を出して、世に広めたい」。あれよあれよと周囲の方がサポートしてくれて今回実現した。完成した漫画を那覇市のキッズクラブ2ヶ所に贈呈。英語版の本も海外にいる沖縄にルーツをもつ方々の手に届いているそう。今後は日本語版の制作も目指したい。
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小学生から高校生を対象としたDTMワークショップおよびDTMコンテストの実施による県内若手音楽制作人材の発掘・育成事業/安田陽ブランディング研究所 安田陽
先ほど、AOTSUBAME 根間さんの報告にもありましたが、私の取り組みにおいても、北部地域や離島の子どもたちが参加できず、当初からの懸念材料だった“体験格差”がはっきり出てしまった。今後の課題として取り組む。DTMコンテスト入賞者の継続的支援についても、プロのミュージシャンと交流の場を設けるなどして実施。これからも、音楽をつくる子ども達を沖縄で増やすことを目標に、ワークショップを継続していきたい。
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シマヲツナグ。/シマヲツナグ。実行委員会
子どもたちが趣味でやっていたカメラの撮影、アクセサリーづくり、iPadで描いたイラストが、実際に仕事に“つながる瞬間”を目の当たりした。これは宮古島の子どもたちにとって大きな刺激になった。学びの場だけではなく、アウトプットの場となるイベントやコンクールを創出できるよう今後も取り組んでいく。

 

【グループE】

障害者が自由に表現できる場を地域に創出する事業/兼浜克弥
今回のプロジェクトには、統合失調症・解離性障害・ギャンブル依存症・発達障害・うつ病など、様々な精神疾患を抱える人たちが参加してくれた。外部から講師を招いて表現ワークショップを実施したり、“メンヘラーズ”を結成して地域の清掃活動にも参加。さらには小学校へ出向き、子ども達とつながることも出来た。私も当事者ですが、精神疾患は「人とのつながり直しの病」なんです。だからこそ多くの人とつながり直して、そのつながりから生まれるエネルギーを活動に活かしていきたい。子どもたちが多感な時期に、メンタルヘルスリテラシーに触れるような機会を義務教育の中で創出できたら、と考えている。現在も中学校でその機会を持てるように、関係各所と調整中です。
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「Uni-q(ゆにーく)」演劇プロジェクト/一般社団法人 UNIVA
地域の障害福祉サービス事業を出発点に、福祉団体とアーティストが協働し、障害の有無にかかわらず誰もが参加できるインクルーシブな演劇ワークショップを継続的に行った。石垣市ではまだ取り組みのない障害のある人による演劇活動でしたが、色々なワークショップを重ねて発表に漕ぎ着けた。本助成を通して描いた夢の一歩を実現でき嬉しかった。
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音声ガイド・日本語字幕付き沖縄映画鑑賞創出事業/株式会社918
映画祭の合間にもうけた「ゆんたくタイム」では、視覚や聴覚に障がいがある方と製作者が映画について率直に意見交換ができる貴重な交流の場となった。こういった交流を通して製作側にも視点の変化が起こり、映画のアイディア・構想における影響も感じられた。今年度は、新たに3本の映画に音声ガイド・日本語字幕をつけることができた。今後も継続して上演作品数を増やしたい。告知については周知不足とのご指摘もあった。情報発信に課題が残ったと実感している。

 

【アドバイザリーボードの総括コメント】

若林 朋子 委員
それぞれの活動を実現していただきありがとうございました。今年の報告会では、活動内容を多くの方々と共有できたように思います。ここから何かがつながり広がっていくことを願っています。補助金はずっと続くものではないからこそ、採択された一年一年、一回一回をいかに充実させるか。新たなことに挑戦して、何かを見出し、課題も含めて結果を他者と共有する。本事業で大事なのはこのプロセスなのだとあらためて感じました。皆様の取り組みをよりよい形で実現していくにはどうしたらいいのか。我々も一緒に考え続けたいと思います。

林 立騎 委員
かつて沖縄アーツカウンシルのPOだった者として、オープンに事業者の取り組みを共有できる場が創られたことに敬意を表します。今年度は団体のみならず個人枠の充実がすごいと思いました。個人の取り組みが他者のエンパワメントになる事業ばかりでした。ただ、制度面から見たときには、個人枠は申請者自身が1円ももらうことが出来ない仕組みのままで、現状の制度について再検討する必要があると思います。こんなにも多様な思いを持った個人が、文化芸術の補助事業を活用して社会に向けて表現する姿勢に深く胸打たれますし、そういった個々人を全面的に応援できる沖縄アーツカウンシルであって欲しいと思います。

大田 静男 委員
私は石垣島からの参加です。やはり率直に思うのは、沖縄本島と離島の格差。改めて、沖縄本島には色々な活動をなさっている方々がいるなと感じた。石垣島はじめ離島や北部地域では、金銭的な面も含めてまだまだ課題はあると痛感します。あと、手続き全般を通して煩わしい点が多すぎる!手続きをもっと簡単にする方向性を模索していただきたいと。何なら、もう僕が全部印鑑押しますよ(笑)。それくらい皆さん一生懸命取り組まれた1年だったんだなと。熱意に胸打たれました。

宮城 潤 委員
補助事業の予算というのは限りがあり、ずっと続くものではありません。補助期間終了後には自走するようにと求められますが、文化芸術事業の自走化は難しいですし、必ずしも自走化がゴールというわけではありません。だからこそ今、助成を受けている間に次の展開の足がかりをつくっていただきたい。社会課題を顕在化させたりビジョンを示して共感を生むなどして多くの人とつながって欲しい。“あの3年間があったから今の展開が生まれた、そう言えるような期間であって欲しいと願います。今回の報告会は共有できる場が創られたな、と感じています。文化振興会の皆さんもお疲れ様でした。今回を機に生まれたつながりを持って、新たな展開に発展させていきましょう!

 

おわりに
今回初の試みとなったYUUREEGWa。会場には赤ちゃんがいたり、組踊に挑戦する子どもたちの声が響いたりと、まるで即席の小さなコミュニティのような空間が生まれていて、集った事業者や来場者同士に“新たなつながり”をもたらす絶好の機会を演出できたのではないでしょうか。また、本イベントからは事業者と伴走しながら支援してきたプログラムオフィサーとの信頼関係が垣間見え、この1年間、事業の魅力を引き出そうと懸命に走り続けてきたのだなと感じました。想定を超える皆様がご来場くださったこと、また例年以上に反響があったことに、沖縄アーツカウンシルのメンバーも手応えを感じていることだと思います。今後も沖縄アーツカウンシルが、沖縄の文化の担い手を継続してサポートすること、そして交流の基盤“YUUREEGWa”(沖縄のことばで“寄り合い場”)として、その存在感を発揮してくれることに期待します。


執筆:具志堅 梢
撮影:小高 政彦  ※レポート冒頭1枚目、上映ブース写真を除く