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2023.03.17 Fri

Report: フォーラム「地域に向き合い、地域と育む ―文化資源活用とその持続的な取り組み―」

 公益財団法人沖縄県文化振興会(沖縄アーツカウンシル)が主催するフォーラム「地域に向き合い、地域と育む ―文化資源活用とその持続的な取り組み―」が2月11日、那覇市の県立博物館・美術館で開催された。沖縄県の多様で豊かな歴史や風土、地域の伝統芸能や文化芸術といった文化資源の活用や、文化芸術活動の担い手育成に関する今後の展開に向けての機運を醸成することが目的で、北海道白老(しらおい)町の飛生(とびう)地区を拠点にする、飛生アートコミュニティー ディレクターの木野哲也さんをスピーカーに招いた。第一部で木野さんは、廃校となった小学校を活用したアーティストたちの共同アトリエの取り組みや、沖縄県大宜味村塩屋でのプロジェクトなどを紹介した。第二部では聴衆を交えたディスカッションが行われた。
 全体の進行は八巻真哉・沖縄アーツカウンシル プログラムオフィサーが行った。

【第一部】

 木野さんが活動の拠点としている北海道の白老町は、北海道中南部の新千歳空港から道央自動車道を利用すると40分ほどの位置にある。2020年7月に国立アイヌ民族博物館“ウポポイ”が開館したことでも知られる。飛生地区は白老町の海岸から山側へ約6㎞の5世帯、10人ほどが暮らす小さな集落だ。飛生アートコミュニティーは1986年に、廃校となった旧飛生小学校にアトリエを構えたアーティストたちによって発足した。2009年からは「飛生芸術祭」、2011年から「飛生の森づくりプロジェクト」が木野さんと多くの有志による協働で続いている。

 木野さんは「昨日北海道から飛んで来る朝には、雪かきをしてきました」と話しを切り出し、地域資源や土地の文化への思索を示した。

地域資源ってなんだろう。土地の文化ってなんだろう。 
有形・無形いろいろなカタチがきっとあるんだろう。
その土地のモノコトヒト、すべてが個性的で味わい深いだろう。 
特別さではない。
誰も知らない人々の極々普通の暮らし・いとなみ、何気ない日常風景。

昔話や世間話、子育て話や通院の話、今日の給食の話、彼氏の愚痴、うまいラーメン屋、
釣りの話に耳を傾けてみる、聞き重ねてみる。
そこから感じるヒント、始まる人間性だってあるだろう。
人が生きて死ぬまでのすべてが、固有で尊い文化ではないだろうか。
その土地に在るありのままを尊び、
忘れさられそうなモノコトヒトを想ってみる。



 木野さんは、飛生アートコミュニティーの第2世代。校舎裏の学校林が倒木やクマザサに覆われ「手の付けようがなかった森」を切り開いていこうと2011年から有志メンバーたちで森づくりプロジェクトを続けている。「昼はいつもカレー、夜はクマや鹿とかも食べてます。女の子もがんがん木を切ります。池をきれいにしようとしたら、天然記念物のサンショウウオが死んでしまい、汚いままがビオトープだったんじゃんとか気づいた」など、活動の様子を豊富な写真を示しながら報告し「幸せって他人が決めるものじゃないけれど、きっと幸せを見つけられるとしたら、良きコミュニティーにであうことかな」と話した。

 「飛生芸術祭」や「トビウの森と村祭り」については「年に1度森に魔法がかかる」をキーワードに、この土地からの創造・発信を希求し、子どもたちや地域の住民がステージに上がることや、アイヌの古式舞踊とりいいれたことがアイヌの方にも好評だったことなどを紹介した。

photo by アキタヒデキ
 
 また、大宜味村の塩屋での歩いて巡る野外写真展も紹介した。沖縄の代表的写真家・故平良孝七さんが撮影した塩屋湾のウンガミ(海神祭)などの写真を塩屋売店の周辺の屋外に展示するプロジェクトだ。「やんばるアートフェスティバルをきっかけに沖縄に来るようになり、塩屋の売店でのご縁が深くなった。売店前のガジュマルに昼夜集うご近所さんに接して『近所』というコミュニティーが飛生と近い気がした。平良孝七のウンガミの記録写真集がかっこいいとずっと気になっていた。写真展示を見た住民たちが、写っている人や当時を尊び、思い出しながら語り合う風景に、地域の絆とかがゆっくり結び直されていく感覚が得られた」と振り返った。
 
 地域と⽂化芸術の可能性について木野さんは「⼟地のいとなみ、⼈々が⽣きてきた証に光を当てることで、願わくば、⼈々に幸せになるためのヒントを⽣み、新しい価値観と観点、居場所、新しい友⼈を⽣み出すものであり、忘れかけていた記憶を呼び覚ましたり、ひと・コミュニティの絆を取り戻す。文化芸術にはそういう機能・役割・得意技があるのだと僕は感じています」とのメッセージを伝えた。

【第二部】ラウンドテーブル


 フロアからは、木野さんにマネジメントの体制や、アーティストの選出の仕方について質問があった。木野さんは「一人株式会社です。プロジェクトをする時にチームをつくる。アーティストはどんなに有名無名関係なく、地域に滞在して、土地のひと・もの・こと、からインスパイアを受けて何かをつくってほしい。その土地でしかなしえないものをつくりたい、というこだわりがある」と応えた。

photo by Asako Yoshikawa
 
 また、大宜味村観光協会の職員からは北海道小樽市の「おたる案内人」制度を参考に、大宜味の歴史文化を学び、郷土愛を再発見したいとの発言があった。また、男性アーティストからは、「地域に入っていくのが怖くて、関係性をつくるまで踏み込むどんな方法があったのかなと思う。飛生にアートスペースがあるのが良いと思う。沖縄もアーティストが集まる場所があると長い時間を掛けて関係をつくれるのかな」との希望があった。
 
 八巻プログラムオフィサーの「まちや地域をどういう場所にしたいのかでコミュニティーのつくりかたは変わってくる。旗を振るきっかけは行政的な立場から必要か」との問いに木野さんは「文化振興会の助成の制度は活かしながら、人を育てる枠を充実する。経験者の人が伴走して行くのもいいかもしれない」と応えた。八巻プログラムオフィサーは、沖縄アーツカウンシルの採択から漏れた人や団体の支援も課題だとの認識を示した。

 大宜味の陶芸家は「みんな得意不得意があって、作品を作るだけがアーティストではなく、ガジュマルの下で集まっている人もアーティストでもいいんじゃないか、存在自体がアーティストだ」と提起。木野さんは「住民みんながアーティストというプロジェクトがあっていい」と応えた上で「背伸びしすぎて手の届かないことでなく、地面に足がついているかが大事。頑張りすぎなくてもできることから、出来そうな事からちょっとやってみたらいい。宣伝のチラシをどうしよう、告知はSNSでもいいだろうかとか、赤字にしないにためには…とかいろいろ考える。大小問わず企画や収支を最初から最後までやると、事業になり、自信になり、つながりもできる」と身近なことから始めることを薦めた。


執筆:真栄里泰球
会場写真:桑村ヒロシ