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2025.06.13 Fri

アドバイザリーボードによる総評|令和7年度沖縄文化芸術の創造発信支援事業

>>総評のPDFデータはこちらをご覧ください。

アドバイザリーボードによる総評

 沖縄県文化芸術振興会の沖縄アーツカウンシルでは、「沖縄文化芸術の創造発信支援事業」として、沖縄の多様で豊かな文化芸術活動の持続的発展を図る取り組みを行なっています。前身事業から数えると、沖縄アーツカウンシルによる支援事業は今年で14年目を数え、本事業も4年目を迎えました。

 今年度の選考結果と過去3年の採択状況は下表のとおりです。昨年度と比較すると、今年度は交付予算額が約580万円減額された影響が大きく、総採択件数が1件減りました。申請数は例年並みに戻りましたが、団体枠で高評価事業が少なからず不採択となり、ニーズに対する交付予算不足は依然深刻です。

▼「沖縄文化芸術の創造発信支援事業」の採択状況

団体
(採択率)
スタートアップ
(採択率)
個人事業主
(採択率)
総採択件数
(採択率)
補助金
希望総額
県予算額
(希望総額との差引額)
2023年度 26件中9件
(35%)
5件中5件
(100%)
14件中7件
(50%)
45件中21件
(47%)
1億1451万円 4114万円
(-7337万円)
2024年度 41件中13件
(32%)
13件中4件
(31%)
12件中6件
(50%)
66件中23件
(35%)
1億7009万円 4593万円
(-1億2416万円)
2025年度 31件中13件
(42%)
8件中6件
(75%)
7件中3件
(43%)
46件中22件
(48%)
1億84万円 4010万円
(-6074万円)


 選考については、申請後の辞退2件を除く44件について、3日間をかけてプレゼンテーション審査会を実施し、4日目にアドバイザリーボードが公募要領にある基準に沿って採点を行ない、点数が上位の事業から予算額の枠内で採択しました。採択に際しては、ボードメンバー全員で議論を尽くしました。今年度も煩雑な書類をご準備いただき、プレゼンテーションにご参加下さった皆様に感謝いたします。

 採択された22件には、那覇だけでなく、宮古島、名護、大宜味、東村、浦添、豊見城、南城、糸満等、県内各地の活動が見られますが、次年度は八重山をはじめとしてさらに離島からの申請・採択が増え、多様な島々の文化芸術活動を支援できることを期待します。事業内容については、伝統の継承と創造、社会包摂的な取組み、海外との平和交流、地域の伝統と観光、学校教育との連携、文化芸術を通じた生態系の保護や地域振興、新しい言葉のための市民活動、東京やオンラインでの教育事業に至るまで、文化芸術を多様な役割や課題とつなげる内容が見受けられました。採択事業から3つを紹介します。

[応募区分]団体
[事業区分]区分1:文化芸術団体等の組織力向上・基盤強化に資する取り組み
[事業者名]琉球器楽の会
[事業名]琉球箏低十三絃(仮称)の開発により、3つの変革と創造を図る取り組み
琉球楽器における低音域の不足という課題に向き合い、新しい箏の開発に取り組み、試演会の実施を通じて、「音楽および楽器」「享受者」「担い手」の3つの面における変革と創造を図る事業です。

[応募区分]スタートアップ
[事業区分]区分3:文化芸術を通じて地域の諸課題解決や活性化の促進等に寄与する取り組み
[事業者名]カラフルコーラスOKINAWA
[事業名]障がいによる分断や子どもの体験格差を改善する新しい芸術表現【手歌】の発信事業
音楽家や手話通訳士が連携して、沖縄独自の手歌 (しまくとぅば手歌)を含む「手歌ワークショップ」とシンポジウムを開催し、障がい者を含む全ての人が表現活動に参加できる仕組みを整える事業です。

[応募区分]個人事業主
[事業区分]区分3:文化芸術を通じて地域の諸課題解決や活性化の促進等に寄与する取り組み
[事業者名]SOUVENIR 宮城いつか
[事業名]映画でひらく、語り場 in 東村
映画館がない東村で上映とトークを定期開催し、多様な価値観や社会的テーマに出会い、「考える・語り合う・つながる」場を地域に創出して、文化的な土壌づくりや次世代育成につなげていく事業です。

 本事業の今年度の募集は、今回で終了となります。次年度へ向けて、審査会を終えたアドバイザリーボードの所見をお伝えいたします。

1)今年度から課税事業者と免税事業者の区別が導入されました。免税事業者にとっては、消費税分が補助対象となり、実質1割の補助額増となりました。これまで免税事業者の皆様に制度的な負担をおかけしていたことをお詫びするとともに、今後も制度改善を提案してまいります。
2)例年、補助予算総額に限りがあり、応募も多いことから、今後も事業のために必要な、現実的な予算額をご申請いただければ幸いです。特に通常の自社事業の延長と思われるものは、補助金の趣旨に沿いませんので、広く沖縄の文化芸術の創造と発信に資する取組みを期待いたします。
3)団体・スタートアップ・個人事業主を問わず、事業が関係者の負担となって終わらぬよう、適切な事務局体制を整えてご応募いただければ幸いです。そのためにも、申請前になるべく沖縄アーツカウンシルの相談会をご利用いただき、小さな規模からスタートすることもご検討ください。
4)過去に採択された事業の23年目の申請において、内容の積み重ねや展望が十分でないように感じられるものが複数ありました。単なる事業の拡大ではなく、当初の問題意識に立ち返り、少しでも本来の課題に対する展望・突破口が開けてくるような事業の発展を願っております。
5)他方で、以前不採択となった事業がより充実した内容で申請され、採択された事例が複数ありました。再チャレンジされた皆様に敬意を表するとともに、この流れが続くことを期待します。

 今年度は、申請件数は減少したものの、新しい事業者の応募が多く、沖縄アーツカウンシルのプログラムオフィサーの日常的なコミュニケーションのあり方や、3月に那覇市第一牧志公設市場の内外で開催されたオープンな事業報告会・補助金説明会が成果を生んだものと考えます。沖縄アーツカウンシルの専門家たちの日頃の努力にあらためて敬意を表したいと思います。

 今年は「戦後」80年であり、応募事業にも歴史の共有と平和の発信に関するものが見られましたが、それだけでなく、誰でも・どこでも文化芸術を通じて他者とつながり、学び合い、歴史を知り、子どもたちの未来や地域の暮らしを守ろうとする取組みが数多くありました。節目の年だからこそ、歴史を表層的に捉えることなく、人と地域の中に続いてきた「深い内発性」を大切に守り育てるような文化芸術が各地で実現してほしいと願います。また、内発性を妨げることのない県の文化行政を期待します。

 沖縄県文化芸術振興会は、県文化行政を補完する目的で、県によって設立された公益財団法人です。その中でも全国的に先駆的な沖縄アーツカウンシルの活動の歴史を見れば、この機能の拡張と安定的な人員配置が必要であることは明らかです。専門家が持続的に文化振興に取り組むことのできる環境整備を、沖縄県及び文化芸術振興会に対して強く求めるとともに、事業のさらなる発展を願います。

沖縄アーツカウンシル アドバイザリーボード
大田静男、金惠信、林立騎、若林朋子