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2024.07.29 Mon

アドバイザリーボードによる総評|令和6年度沖縄文化芸術の創造発信支援事業

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アドバイザリーボードによる総評

 沖縄県文化振興会の沖縄アーツカウンシルでは、「沖縄文化芸術の創造発信支援事業」として、沖縄の多様で豊かな文化芸術活動の持続的発展を図る取り組みを行なっています。前身事業から数えると、沖縄アーツカウンシルによる支援事業は今年で13年目を数え、本事業も3年目を迎えました。

 今年度の採択件数と採択率は下表のとおりです。昨年度と比較すると、今年度は交付予算額が約480万円増加し、総採択件数も2件増えたものの、申請の総数が66件と1.5倍に大幅増したことから、高評価事業が少なからず不採択となり、ニーズに対する交付予算不足の深刻さが深まる結果となりました。

▼「沖縄文化芸術の創造発信支援事業」の採択状況

団体
(採択率)
スタートアップ
(採択率)
個人事業主
(採択率)
総採択件数
(採択率)
補助金
希望総額
県予算額
(希望総額との差引額)
2023年度 26件中9件
(35%)
5件中5件
(100%)
14件中7件
(50%)
45件中21件
(47%)
1億1451万円 4114万円
(-7337万円)
2024年度 41件中13件
(32%)
13件中4件
(31%)
12件中6件
(50%)
66件中23件
(35%)
1億7009万円 4593万円
(-1億2416万円)


 選考については、申請後の辞退3件を除く63件について、3日間をかけてプレゼンテーション審査会を実施し、4日目にアドバイザリーボードが公募要領にある基準に沿って採点を行ない、点数が上位の事業から予算額の枠内で採択しました。採択に際しては、ボードメンバー全員で議論を尽くしました。

 今年度は、40件もの申請を不採択とせざるを得ませんでしたが、煩雑な応募書類をご準備いただき、プレゼンテーション審査会にご参加下さった全てのみなさまに深く感謝し、敬意を表します。

 採択された23件には、那覇だけでなく、石垣、宮古、名護、北中城、宜野湾、浦添、西原、豊見城、南城等、県内各地からの取り組みが見られます。テーマも、芸能の継承と発信、沖縄と海外の交流、離島の地域振興、食文化、福祉、業界の環境改善、戦争と平和、ゲームやメタバースの活用に至るまで、文化芸術を多様な役割や課題とつなげる内容が見受けられました。採択事業から3つを紹介します。

[応募区分]団体
[事業区分]区分2:文化芸術を次代に引き継ぐ新たな創造発信を伴う取り組み
[事業者名]Maeda Lacquer Project(漆工房・前田貝揃案)
[事業名]琉球漆器螺鈿伝統技術を若者へ広げるための「Gateway作品」試作事業
漆工芸螺鈿の伝統技術をストリート文化と連動させ、沖縄の若者世代に向けた「Gateway作品」を試作することで、伝統工芸を現在の生活に浸透させ、その成果を展覧会やフォーラムで共有する事業です。

[応募区分]スタートアップ
[事業区分]区分3:文化芸術を通じて地域の諸課題解決や活性化の促進等に寄与する取り組み
[事業者名]あなたの沖縄
[事業名]個人的な体験から沖縄を表現する新たな言葉を獲得するための市民活動
若者が社会問題以前に「個人的な体験」から沖縄を語る言葉を取り戻すために、沖縄を表現するアーティストのワークショップやトークイベントを開催し、思いを素直に表現できる言葉を探る事業です。

[応募区分]個人事業主
[事業区分]区分1:文化芸術団体等の組織力向上・基盤強化に資する取り組み
[事業者名]波平直毅
[事業名]多良間島と沖縄本島を八月踊りの芸能で繋ぐことで人材育成を図る
沖縄島の金丸獅子と多良間島の獅子座の交流を通じて、人材育成と多良間島の芸能の発展を図り、多良間島字塩川保有の神獅子のレプリカを製作して、県内外の演舞で使用できるようにする事業です。

 本事業の今年度の募集は、今回で終了となります。次年度へ向けて、審査会を終えたアドバイザリーボードの所見をお伝えいたします。

1) 応募者の皆様のお声を反映し、今年度は、応募書類が若干簡素化されました。今後も、沖縄アーツカウンシルのプログラムオフィサーとともに、よりアクセスしやすい助成事業を目指して、改善を続けたいと思います。
2) 例年、補助予算総額に限りがあり、応募も多いことから、事業のために必要な、現実的な予算額をご申請いただければ幸いです。特に通常の自社事業の延長と思われるものは、補助金の趣旨に沿いませんので、広く沖縄の文化芸術の創造と発信に資する取組みを期待いたします。
3) 残念ながら、過去に採択された2・3年目の申請において、内容の積み重ねや展望が十分でないように感じられるものが複数ありました。事業の実施や精算で多忙な中、いかに企画を深め、将来の展開を構想できるか、ハンズオン支援のあり方も含めて、再検討できればと思います。
4) 団体・スタートアップ・個人を問わず、活動の場となる地域やコミュニティとの関係を大切に、体制を整えてご応募いただければ幸いです。地域やコミュニティでの準備を丁寧に進めてこそ、事業の趣旨と事業の手法が乖離していない、意義深い企画が生まれるのではないかと考えます。

 今年度、申請件数が1.5倍と大幅増になったことは、本事業への関心が一層高まってきていることを示しています。これについては、沖縄アーツカウンシルのプログラムオフィサーの日常的なコミュニケーションのあり方や、3月に開催されたオープンな事業報告会・補助金説明会が成果を生んだものと考えます。沖縄アーツカウンシルの専門家たちの日頃の努力にあらためて敬意を表したいと思います。

 ハラスメントのない文化芸術分野を目指す環境改善の動きや、戦争と平和に関する取組み、芸能の記録・発信・人材育成といった今年度の申請内容は、現代社会に生きる人々が文化芸術に求めている内容を反映しており、大きな時代の曲がり角に差し掛かっているのではないかと感じさせます。一つひとつが県民の切実な思いから生まれており、社会に向けて柔軟な応答のできる文化芸術への期待が数字にも表れていることを、沖縄県が適切に認識し、次年度の予算措置を講じることを望みます。

 沖縄県文化振興会は、県の文化行政を補完する目的で、県によって設立された公益財団法人です。その中でも全国的に先駆的な沖縄アーツカウンシルの活動の成果・課題を見れば、この機能への継続的な人員の配置が必要であると感じられます。専門家が安心して文化振興に取り組むことのできる環境整備を、県文化振興課及び県文化振興会に対して強く求めるとともに、事業のさらなる発展を願います。

令和6年5月24日
沖縄アーツカウンシル アドバイザリーボード
大田静男、林立騎、宮城潤、若林朋子