2020.10.06 Tue
芸能継承の危機に立ち上がった古見の皆さん
西表島東部にある古見(こみ)村落は歴史が古く、多くの年中行事が執り行われてきた。しかし過疎が進むとともに祭事を継続するための人数も減り、特に奉納芸能の地謡は、石垣島に住む古見出身の古老がたったひとりで務めてきて、その方が参加できない時は、近隣地域に応援を頼むこともあった。近年は、他地域では当たり前の行事も行えないこともあるという。
この危機に意を決し、古見の皆さんは芸能継承の仕組み作りに立ち上がった。
平成 30 年度には、主に古見の結願祭(きつがんさい)で奉納される演目「長者」について、地域に残る音声テープや映像資料を大学や研究者の協力を受けてデジタル化。そこから作成した工工四を冊子にまとめ『西表島古見結願祭工工四 長者』として発行。集落内の各世帯や石垣在古見郷友会の方々、古見小学校などに配布した。
工工四がもたらした地域のつながり
今年度は配布された工工四を活用した教習が本格化した。全校児童 8 名の古見小学校では、年 1回の学習発表会に向けて教職員と地域の皆さんが熱心に指導。5 ~ 6 年生の 3 人が地謡、2 ~ 4 年生の5人が踊りをつとめ、「長者」の中の一節「馬節」の披露が実現した。
石垣在古見郷友会でも教習が始まり、今年度から古見の親元を離れて石垣市内に進学した高校生も参加して、「長者」を中心に取り組んでいる。
今年度、結願祭は人手不足などで開催されなかったが、教習の成果発表の機会を設けたいと、古見公民館主催の行事「むゆりあすびわーら」(古見の言葉で「寄り集まって一緒に遊びましょう」)が行われ「長者」が演じられた。
舞台では子どもから大人まで皆が踊り、地謡には、これまでも古見の行事で協力してきた小浜島の奏者に加え、石垣在古見郷友会の方、進学した高校生、そして初めて古見小6年生の児童も参加した。古見では、工工四をきっかけにした新しいつながりが生まれ続けている。
担当プログラムオフィサーのコメント
学習発表会の直前には、子どもたちが放課後自宅に帰ってから三線の練習をする音色が響いたそうです。
これまでにはなかったことで、それを聴いた近所の方がお宅を訪ね、子どもに教える場面もあったとのこと。発表会本番は大勢の地域の方々が見守り、子どもたちだけで地域の伝統芸能が演じられたことを喜びました。
「この工工四さえあれば」。事業の統括をつとめた古見民俗芸能保存会の新盛基代さんは、私たちにくり返しそう話してくれました。基代さんたちの継承にかける強い意思が冊子化を実現させ、共鳴した地域の皆さんの思いがつながりを生み、教習はこれからも続いていきます。